コロナ禍で訪日外国人が激減し、国内消費も自粛ムードで落ち込む中、百貨店業界は大きな打撃を受けた。だが、一部の〝お得意様〟向けサービスである「外商」はコロナ禍でも活況を呈しており、新たな潮流が生まれている。
現場では徹底的にお客様の価値観に寄り添い、テクノロジーではできない〝人ならでは〟のサービスで勝機を見出す外商員の姿があった。
三越伊勢丹ホールディングス(東京都新宿区)が運営する伊勢丹新宿店・日本橋三越本店では、2021年度における外商の売り上げは790億円とコロナ前の水準を上回り、今年度は860億円を目指すという。外商といえば高級住宅街に住むようなシニア富裕層が消費を牽引するイメージがある。だが、伊勢丹新宿店では49歳以下の購買額シェアが上昇しており、顧客の「若返り」が進んでいる。中でも44歳以下の購入金額はコロナ禍前の2.3倍にもなっているという。
その変化について同店外商統括部の種村俊彦氏は「3、4年ほど前から、外商を頻度高く利用していただける方が若年化し、男女問わず20~50代の若い経営者の方を中心にダイナミックな消費をする傾向がみられるようになったと感じます」と話す。
お金があればスマホ一つで何でも買うことができるこの時代。ましてや若い経営者なら普段からインターネット通販(EC)サイトを利用している人も多いはずだ。なぜ彼らは外商を利用した買いものをするのだろうか。
検索では生まれない
コミュニケーションと発見
「春物で何か自分に似合うものってありませんか?」
同店の個人外商担当として多くの若年層経営者を顧客に持つ山本玲伊子氏には、こんなざっくりとした相談が来るという。
「お客様に的確なご提案をするためには、予算、欲しいアイテム、色味など、ご要望の詳細を質問したくなります。でも、あえて質問は返さないようにしています。忙しいお客様の代わりに考えて、提案に落とし込むのが、われわれ外商の仕事だからです。抽象的なオーダーに対して、幅のある提案を返すことによって、お客様のイメージが膨らみ、次のコミュニケーションが生まれます。例えば、お客様のお好みに合いそうなワンピースやパンツを提案するのに併せて、それらに合うベルトも選択肢に入れます。すると『そういえばベルトを持っていないから買おうかな』など、お客様が相談をされた当初は想定していなかった気付きを得てもらうこともできます」(山本氏)
この提案力と人同士の何気ないやりとりこそがECにはない外商の大きな魅力であることは間違いないだろう。ECで商品を購入しようと思った場合、検索機能では自分が入力した情報でしかフィルターをかけてはくれない。だが、外商は担当者が顧客の頭の中やクローゼットの中を想像し、具体的に言語化されていないニーズをくみ取った上で、その中から選択肢を〝厳選〟して提案してくれる。
高額商品の購入に限らず、日々の困り事や、たとえ数千円レベルの買い物であっても丁寧に対応することで、外商員は顧客の好みや価値観を敏感に感じ取れるという。
「検索は点と点をつなぐものですが、外商はそのプロセスに介入し、線や面でご提案することができます。これは人間だからこそできる仕事です」(種村氏)
まさに検索だけでは生まれない、人と人とのコミュニケーションがなせるわざだ。