アラブ系ロビーの弱さ
イスラエル・ロビーに対抗する立場に立つアラブ系ロビーが弱体であることも、イスラエル・ロビーの強さを補強している。
アラブ系といえば石油関連で豊かな人がいるという印象を持つ人もいるかもしれないが、エネルギー企業とアラブ系米国人の利益が一致しているわけではないし、エネルギー企業も石油価格には関心があっても外交問題に対して直接的な関心があるとも限らない。
実は、米国内におけるイスラム教徒も位置づけについては不明な点が多く、実数もよくわかっていない。ただし、その大半が裕福ではないとされる。
アラブ系はさまざまな国からやってきた多様な人々であり、その境遇はさまざまであるし、イスラム教徒内部でもスンニ派とシーア派の対立などが存在する。アラブ系内には実はキリスト教徒も多いため、中東政策について一致した見解を持つとは限らない。
仮にイスラエルに敵対的な見解を持つアラブ系の人がいるとしても、とりわけ9.11テロ事件以後はヘイト・クライムの可能性を恐れて積極的に政治活動を行うこともない。国勢調査でも単に白人と回答する人の割合が多いと指摘されており、アラブ系としてのアイデンティティを前面に出して政治活動をする人は少数である。
このような状況を考えると、彼らがイスラエル・ロビーに効果的に対抗できるとは考えにくいだろう。
イスラエル支援が必ずしも米国のためとならない
先に紹介したミアシャイマーとウォルトは、イスラエル・ロビーの強さと、それから影響を受けた政治家がイスラエルに対する全面支援を継続していることが、米国の国益を損なっていると指摘している。米国とイスラエルの間に緊密な関係が存在することによって、米国が重要な同盟国を支持するのが困難になり、アラブ・イスラム世界に反米主義が拡大しているという。
米国は世界の覇権国としての地位を既に失っており、国際的な影響力が相対的に弱体化していることは否めない。今回のハマスとイスラエルの対立に対して、バイデン政権は国際社会からの反発も予想して繊細な対応を心がけているとはいえ、イスラエル寄りの姿勢は鮮明である。
本記事で指摘したとおり、このような姿勢は米国内の内政上の理由によってもたらされている面が大きいが、これが世界における米国の位置にどのような影響を及ぼすかについても注目する必要があるだろう。