2024年5月22日(水)

キーワードから学ぶアメリカ

2023年10月25日

イスラエル・ロビーの凝集性の高さ

 イスラエル・ロビーとして知られる利益団体は複数存在するが、とりわけ大きな影響力を行使しているのが、米国イスラエル公共問題委員会(AIPAC)である。1963年に創設された同団体は、全米トップ25のロビー団体の中で外交政策に働きかけを行う唯一のロビーである。

 同団体のホームページには、300万人を超えるグラスルーツの活動家が存在するとのことだ(実態はそれを下回るだろう)。彼らは、イスラエルの安全を保障するのが米国の国益に適うと主張している。

 イスラエル・ロビーの影響力の強さは、各団体の凝集性の高さによって説明できる。ユダヤ系アメリカ人はさまざまな利益関心を持つ多様な人々であり、各種争点についての見解も多様である。だが、イスラエル・ロビーが政府に働きかける際には見解の多様性を表面化させてはならないというコンセンサスが主流派団体の中に存在する。

 AIPACの方針を定める理事会への参加資格は寄付の額に応じて決められることになっているが、AIPACやAIPACに共鳴する政治家に対する多額の寄付をいとわない人々は熱心なイスラエル擁護者である。そのため、イスラエル・ロビーは内部に多様な見解がある場合でも、対外的には親イスラエルの立場でまとまる。ぶれない姿勢を示すことが、政治的影響力を担保している。

選挙資金と動員力

 イスラエル・ロビーは選挙の際に圧倒的な影響力を行使し、親イスラエルの立場をとる政治家の再選と、反イスラエルの立場をとる政治家の落選に寄与している。

 まず選挙資金の確保と配分において、イスラエル・ロビーは大きな影響力を持つ。米国では選挙を戦うために多額の費用が必要であり、選挙に関する寄付も政治的意思表明、表現の自由の一種として擁護されている。そのため、資金力に秀でた利益集団は、政治過程に大きな影響力を行使することができる。

 ユダヤ系の裕福層には慈善事業の伝統があり、豊富な資金を団体や政治家に寄付する伝統がある。ハリウッドの娯楽・メディア産業で活躍するユダヤ系の富豪が潤沢な献金を行ったことが報道されることがあるが、親イスラエル派の寄付金はアラブ系やイスラム教徒による寄付を圧倒的に凌駕している。

 イスラエル・ロビーは膨大な選挙資金を候補者に分配する役割も果たす。その前提として、議員や候補がイスラエルに対して友好的な態度をとっているかの評価が恒常的に行われている。

 そして、イスラエルに対して友好的な態度をとる候補には膨大な資金を提供する一方で、非友好的と判断された候補については対立候補を送り、多額の資金を投じて追い落としを図るのである。1980年から連邦議会上院の外交委員長を務めていたチャールズ・パーシーがイスラエルに対して非友好的だとして落選に追い込まれたことが、イスラエル・ロビーの政治力を多くの政治家に痛感させたといわれている。

 イスラエル・ロビーは選挙時の動員能力も高い。ユダヤ系は全米の総人口の2%強しか占めていないが、カリフォルニア、フロリダ、イリノイ、ニュージャージー、ニューヨーク、ペンシルベニアなど、大統領選挙の帰趨を決する重要州に多く居住している。ユダヤ系の投票率は一般有権者の二倍に上ると指摘されているが、とりわけ激戦州では彼らの票に注目が集まる。


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