親戚の皆さんにお茶を配らないといけませんね。そのとき姪っ子のA子とB子がいて、A子はなんとなくお茶汲みをさせられるんだけれども、B子はさせられない。僕はこの、A子ちゃんなんですよ。
自分じゃお茶汲みに向いているなんて、思ったことない。けど、向いてそうだなあっていう空気を漂わせている。そういう人のところに、あれやれ、これやれ、って、話が来る。来るから仕方なしにやっていると、アレ、俺ってこんなことに向いていたんだって、そのときになって自分を発見するわけ。これが法事理論(笑)。
例えば飲み会をやるとき、幹事役って必ず誰か固定されますよね。「やっぱりおまえ幹事やって」、と。ナゼっていったら、「あんたがやるとうまくいきそうな気がすんのよ」と。
これは意外と大切で、自分で俺はこんな人間やと。俺はこれが上手いんやと思っている事柄とまた違う次元で、自分を表している事柄なんでね。それが、自分の正体である可能性はすごく高い。
僕は本当言うと、グラフィックデザイナーになって、南青山の白っぽいオフィスで観葉植物置いて、大滝詠一の「ロング・バケーション」かけながらアロハで電話を取って、「あ、○○ちゃん?」とかしゃべってる、ちゃらけた男になりたかったんですけど(笑)。
そうなれなくて、「君は東北新社に入りなさい」と言われて、「君はテレビの方が向いてる」と言われたら、それは青天の霹靂だったんですけれども、思いもしなかったですけども、やってみたら、確かにこれは向いているかもしらんなと。
そういうことって、自分でやりたいと思ったことなんか一度もなかったことだったりする。それでいて、そこに意外と自分の正体は眠っているというケースがあるので、特にヤングで「おれは何がやりたいかわからへん」と言う人は、「おまえはこれだよ」と言う他人の言うことに1度は耳を傾けてみるといいよと言うんです。
編集部 それって、いまの若い人に受けますか? 夢を追いかけて自分探ししたい――、違います? 当節の若者は。
中島 あのね、夢をあきらめないということを信条にしていくと、ホームレスになる可能性がすごく高いんですよ。本当に夢をあきらめなかったら。
編集部 ??
中島 だってほら、きみどうすんの、これから。「あ、僕イチローになりますんで」なんて言い張ってたら、就職できないし、そのうち住民票もなくしますよ。そういう意味。
自分なんて自分ではわからへん。他人に引き出してもらってナンボやという、あきらめの哲学かな、言ってみれば。
(司会・構成=谷口智彦 明治大学国際日本学部客員教授)
中島信也(なかじま・しんや)
(株)東北新社専務取締役 CMディレクター
1959年福岡県生まれ大阪育ち。1982年武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒。同年、東北新社へ入社後、1983年にTVCM演出家となる。
1993、94、95、96年に日清カップヌードル"hungry?"で日本人として初のカンヌ国際CMフェスティバルグランプリ・金・銀・銅賞を受賞。 近年ではサントリーの「伊右衛門」「DAKARA」「燃焼系アミノ式」「PEPSI NEX」、資生堂の「新しい私になって」などを手がける。
2010年4月公開された映画「矢島美容室THE MOVIE~夢をつかまネバダ~」は、「ウルトラマンゼアス」(1996年)に続き、2回目の監督作品。