2024年12月14日(土)

したたか者の流儀

2017年6月22日

 「昔陸軍、今総評」という言葉があった。総評という言葉が生々しかった頃、大学のキャンパスでは「タテカン」「バリ封」という言葉が跋扈していた。今の大学生に聞いても意味がわからないだろうか。

 その逆もある。

 最近のキャンパスでは「ピー逃げ」という言葉はある。当初意味がわからなかった。有名国立大学の国際問題研究所長の口から出た時に、これだと思った。

 今時の大学は、教室に学生証の磁気に反応する器具が壁に設置され、学生は出席したらそこに軽くタッチ、「ピー」という音が出て出席となる。かつての「代返」ではなくタッチ&ゴーをする学生も登場し、これを「ピー逃げ」というのだそうだ。

(iStock)

 同様のシーンを立派な大人が行うのを見てしまった。有名菓子会社の株主総会が都内で行われた。既に駅から会場に向けて蟻の行列となっている。しかし、会場からも蟻の列ができていて、鉢合わせをしながら地下鉄に吸い込まれてゆくのだ。違いは、帰宅組は赤い大きな袋を手に持っているので、まさに働き蟻の行列となっている。

 種明かしをすれば、同社のみやげは有名で株主総会の始まる前にみやげが手渡されるので、その段階で株主番号カードを出口に投げ捨てて、ご帰還となる。株主総会に来ていながら、総会には出ずに、みやげを持って「ピー逃げ」するのだ。この数2500名程度であった。実質参加者は1000人以下と思われる。

 問題続きの東芝は国技館で行われる株主総会に、一昨年まで有名な焼き鳥弁当がふるまわれていた。不適切なのか不正なのかの判断が問われる会計問題が飛び出た昨年、この弁当を廃止したところ、株主総会の参加者が3000数百人規模であったのが、2000人以下にほぼ半減したようだ。

 資本主義のエンジンともいえる上場会社の総会が、ふるまい弁当やお土産目当てで動いているとすれば発する言葉がなくなってしまう。

 そもそも、株主総会前に大株主間の調整で全てが決まっている。もちろん、まれにプロキシーファイト(賛成票獲得競争)もあるにはあるが、普通は議決権行使書を持ってやってくる個人株主など歯牙にもかけないのだ。

 不思議なことに総会屋がいた頃は緊張があった。今は違う。ビデオテープで、今季の業績を流し、来期の経営戦略も少し触れたあと、

「そういうわけなので業務の円滑遂行のために役員を少し増やしたいと思います」
「加えて、配当はこの通りです」
「質問は後ほど、まとめて時間をとります」

 という紋切り型口上が社長である議長からなされて質問時間となる。大勢の前で緊張した個人株主が想像以上の発言をしても慇懃無礼に、

「大変参考になりました」
「ハイ、次の質問」
「時間も押しておりますので、ここで最後の質問をお受けしたいと思います」

 と、あいなる。この不毛に対策はないだろうかと、思案していると、さらに追い打ちをかける話が舞い込んできた。株主総会の入場券である議決権行使書が、ネットで売買されているとうのだ。

 行使書は、小冊子となった定時株主総会招集通知と共に送られてくる。そこには、総会に参加したくない人向けに、議決権行使書に賛否○をつけ目隠しテープを貼り付けて送り返すこともできる。参加する場合は、投函せずに持参することになる。

 しかし、この行使書が売り買いの対象になっていると聞いた。友人で株主行動の研究では日本で有数の研究者から聞いたのだ。


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