2024年11月24日(日)

したたか者の流儀

2017年5月5日

 フランスの高級官僚も、日本同様、試験に落ちたことがないのが普通だ。嫁選びも釣り合いを考えたものが普通だ。これも日本と同様だろう。すなわち金のある家の娘が良縁となる。しかし、エマニュエル・マクロンはすべてにわたって予定調和を否定している。だから、ここまでこれたのだろうと感心してしまう。既製の社会党も共和党も嫌われる現状を肌で感じていたのだとすれば、さらに立派なものだ。

(Aurelien Meunier/Getty Images)

 そもそも彼の経歴をみると、哲学に対する興味があったようだ。パリでフランス一の名門高校を卒業し、さらに2年間勉強してグランゼコールをめざした。当初はサルトルで有名な高等師範学校を目指した。

 高等師範は大学の教授になるための学校という色彩があるがマクロンは不合格となっている。その間、バカロレアがあれば入れるパリ大学のナンテール校などで勉強しながら、ヘーゲルを研究した変わり種だ。したがって高級官僚指向の青年ではないとみた。

 ENA(フランス国立行政学院)に方向転換したあと、たぶん高位で卒業している。役人としては、ミッテランの玄関番であった知の巨人ジャック・アタリの部下となったことがある。ヘーゲルについてひとくさりしたので、アタリから一目置かれたことであろう。

 ジャック・アタリとは、日本でいえば俳優の多々良純氏に瓜二つの人。実際に話したことがあるが博覧強記で、ありとあらゆるジャンルの著作もある。ミッテランが大統領としてエリゼ宮にいた頃、大統領執務室に行くにはアタリの部屋の前を通過することになると聞いた。

 韓国の大統領も同様の役割の人がいたとされるが、ミッテランにとってジャック・アタリは知的門番だったのだろう。

 ミッテランは内政外交軍事で何かあると、「ジャックちょっと来てくれ」と部屋に呼んで話を聞いたのだろう。ミッテランにとってのFirst-Aidのアイコン・マンだったのだろう。一方の官房長が後にルノーのCEOになるシュバイツアーで、そんな先輩に囲まれたマクロンに政治的野心が生まれたのは、オランド大統領の副官房長をしたころからだろうか。

 役人をやめENA時代の給与を返して、ロスチャイルド銀行に転職しているが、ディールを持って入社していると考えるべきだろう。

 有名なロスチャイルドはフランスに2系統ある。もう一つのロスチャイルドは本家と区別するためにLCF(ラ・コンパニー・フィナンシエール)と呼ばれ、こちらは資産運用に強い。

 マクロンのいたロスチャイルドは、英仏連合のロスチャイルドで本家筋でもあり、民営化やM&Aでは、世界のトップクラスだ。ポンピドーは、高等師範の経済学の教授の地位を捨ててロスチャイルドに入社しドゴールのあとの大統領となっているので“験”はいい。


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