2024年12月22日(日)

したたか者の流儀

2017年4月26日

 普通、機内や空港で配られる入国審査カードには、旅行目的の欄がある。どこの国も観光立国を標榜しているので目的の2番目あたりにTourismと書いてある。世界中いろいろな国を訪問したが例外なのがサウジアラビアだ。カードのどこ探してもこの文字がないのだ。すなわち、観光には来てくれるなということだ。いまだにこの点に関する変化はないようだ。

首都リヤドにそびえるキングダムセンター(iStock)

 それだけで驚いてはいけない。サウジ国営航空に搭乗すると直ちに大音量で「アッラー・アクバル」という録音がながれていた。今も同様と聞く。意味はいたってシンプルだ。アッラーはご案内のとおり、「神」という意味だが、アクバルは「偉大」という意味で、2つ併せて「神は偉大なり」ということだ。飛行機は空跳ぶ絨毯ということか。

 リヤド空港で、モハメットと叫べば3割が振り向くといわれているが、アクバルと叫んでも何人かは振り向くことになる。日本語だと大(まさる)君だ。

 いまだにサウジの空港に到着しても検査場で誰もが更に驚くことになる。国内身元引受人の書類などはもちろん、荷物に酒瓶でも混入していたら生きて国に戻れないのではないかという目にあう。現在は返納してしまったが、そんなサウジアラビア・フリーパス保有者として何十回と入国したので、前月、国王が来日にしたことにちなんで偉そうに一言。

 日本を訪問したサウジアラビアのサルマン国王の名を無理して日本語にすれば平和となる。アクバルが大(まさる)君ならサルマンは平和さんということだ。

 何はともあれアラビア語圏では一番使われる言葉の一つがサルマンとかサラムという言葉だ。人とあいさつは「サラマレコム」という。この言葉を聴いたら、ただちに「アレコムサラム」と答えなければならない。「あなたに平和をどうぞ」「あなたにも平和が来るように」といった意味であろう。闘争の歴史だったのでそんな挨拶となったのか勘ぐってみたくなる。地名のエルサレムやダルアルサラムもおなじ平和という意味だろう。すなわち、みんなが平和を祈っていることになる。したがって、今回訪日した国王は、姓はサウド、名は平和ということになる。

 そもそも、サウジアラビアとはサウド家のアラビアという意味で、国民国家ではなく部族間闘争の結果、サウド家が戦いに勝利し他の部族を従えて作った国家ということになる。すなわち、初代国王アブドラアジズ・イブン・サウドが武力でアラビア半島の中央部を平らげて、その間、征服した数々の部族の姫との間に子を作り、現在まで初代国王の実子だけで王冠を回している。

 初代国王の没後65年になるので、最年少の御子息でも日本でいえば法定老人となる。国はサウド家のものなので今後は続々とイブン・サウドの孫たちが王冠を被ることになる。とはいえ祖母は別の家系となるケースも多く一体感が保てるのか不安を感じる向きもある。

 ちなみに、初代国王の名、アブドラは神の子、アジズは力のあるという意味で「力のある神の子」が作った国がサウジアラビアということだ。イスラム教の聖地メッカを支配する守護神としての自覚は高く、戒律も厳しい宗派に属している。


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