サイバー空間の権力論

2017年6月28日

»著者プロフィール
閉じる

塚越健司 (つかごし・けんじ)

拓殖大学非常勤講師

1984年生。専攻は情報社会学、社会哲学。著書に『ハクティビズムとは何か』(ソフトバンク新書)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)、など。TBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』火曜ニュースクリップ担当としてレギュラー出演中(http://www.tbsradio.jp/dc/)。

検索システムのジレンマ

 検索上位にはその他まとめサイトも名を連ねるが、それならば検索上位には信頼性のあるサイトを優先すべきだ、という声もある。医療情報は前述のとおり生命に関わる情報であることから、具体的には国の機関や大学の研究施設、あるいは製薬会社などの信頼性が担保されやすいサイトを検索上位に掲載すればいいというものだ。

 だが、そうした対策を行うには困難が生じるという。検索エンジン専門家の辻正浩氏のブログや、辻氏にインタビューしたBuzzFeedの記事によれば、検索システムと我々の間に大きなジレンマがあるという。

 そもそも多くの人々は「頭痛」といった単語で検索するだけでなく、「赤ちゃん 38℃ 吐いた」などの状況(症状)に応じた内容の検索を行うことが多い。それらピンポイントの情報には公的機関など信頼性の高いサイトは応じることが難しい。すると結果的に記事を多く公開し、様々な状況(症状)に応じた検索ワードに答えられるサイトが検索上位に表示されるというものだ。

 同様に「末期がん ステージ4」といったキーワードに対しては、代替医療サイトなどが検索上位に掲載されることが多く、その中には科学的には根拠が怪しい高額商品が販売されていることもある。末期がん患者やその家族など、検索する側にとっては非常に切実な問題だからこそ、がんが治るといったサイトへのクリック数は否応なく増加し、それらユーザーの行動が検索結果に反映されてしまうこともある。

 グーグルには実際に検索を行って検索精度を検証する品質評価者がいる。だが違法サイトであればすぐに検索結果から削除できるが、医療情報などは専門性がなければその内容を判断できないことから、削除は難しい。またそもそも人間がすべての検索結果を検証することは不可能である

 これらを総合すれば、「信頼性を重視しすぎると有益な情報が探せなくなり、ユーザーの要望を重視しすぎると健康被害をもたらす情報がでてしまう(BuzzFeed)」といった「検索のジレンマ」にグーグルが陥っていることがわかる。グーグルはフェイクニュース等の排除を目指して検索アルゴリズムの改善を発表しているが、高信頼かつ細かな状況に対応できるサービスはすぐには登場しないことから、完全な解決はなかなか難しい。検索精度の向上はグーグルの課題であるが、ユーザーの検索行動もアルゴリズムに影響を与えることなどを考えれば、単にグーグルを叩けばいいだけの話ではない。

「ググレカス」から「ググってもカス」へ

 検索は時として人の生命を奪うことがある。昨年中国で人気の検索サービス「バイドゥ」を利用したがん患者の大学生が、偽の情報に騙されて亡くなったという事件が発生した。珍しいタイプのがんを患ったこの大学生は、検索によって広告を除いて一番上位に出た病院に入院したが、実際はこの病院の治療が詐欺であることが発覚した。この病院がバイドゥに広告を出していたことなどから検索と金の問題でバイドゥは批判されるのだが、いずれにせよこの痛ましい事件は検索が我々に与える影響力の大きさを思い知らせた。

関連記事

新着記事

»もっと見る