2024年4月25日(木)

前向きに読み解く経済の裏側

2017年7月10日

品質の調整が難しいので、日本の生産性が低く見えている

 問題は、品質の調整が難しいことです。日本の理髪と中国の理髪と比べると、おそらく日本の理髪の方が腕前が上で、清潔で、丁寧でしょうが、国際比較する時に、充分に反映されていないのです。自動車のように貿易される品目であれば、「日本車は中国車の2倍の値段だから、日本車1台と中国車2台は同じGDPだ」といった比較が可能なのですが、「日本の理髪サービスは中国の理髪サービスの2倍の価値があるから、日本での理髪1回は中国での理髪2回と同じGDPだ」という事にはなりにくいのです。

 日本の理髪店が清潔なのは、大工が長時間働いて頑丈な建物を建て、それを理髪店の店員が毎日掃除をしているからです。日本の理髪店の店員は、長い間修行をして腕を磨き、しかも一人一人の顧客に対して時間をかけて心を込めてサービスするので、品質が高いのです。それを中国の理髪と同じGDPだと判定されて、「長時間働いたのにGDPが小さいから労働生産性が低い」と言われるのでは、理髪店は心外でしょう。

 日本の電車は時間通りに来ます。そのために鉄道会社の人がどれだけ働いているか。線路や車両の点検は頻繁に行っているでしょう。もしかすると各駅に万が一のための交代要員を置いているかも知れません。それを勘案せずに、「日本も中国も、一人の乗客を100キロ運んだのだから、同じGDPだ。日本の鉄道会社の方が勤務時間が長いから、労働生産性が低い」と言われたら、鉄道会社は心外でしょう。

 中国では、ビールを買う時には店まで出向いて買っているかも知れません。その店も、365日24時間営業ではないでしょう。でも、日本ではコンビニでいつでもビールが買えますし、ネット通販を利用すると、店まで出向かずにビールが買えます。しかも、数年前ならば数日後の配達であったのが、今では場合により即日届きます。それでも「日本でも中国でもビールが1ダース売れたので、同じGDPだ」と計算されてしまったのでは、コンビニもネット通販会社も宅配便業者も心外でしょう。

 東京の空気は北京の空気よりきれいです。それは、日本の自動車工場が空気清浄機の設置を義務づけられているからです。そのために、日本では多くの人が空気清浄機の生産に携わっています。それなのに、「日本でも中国でも自動車が1台生産されたから、GDPは同じだ。日本の方が空気清浄機会社の分だけ労働者数が多いから、労働者一人当たりの生産量は中国の方が多い」と言われたら、日本の自動車会社や空気清浄機会社は心外でしょう。

主婦の家事労働がGDPに含まれない点も留意の要

 主婦の家事労働は、金額に換算できないので、GDP統計に載っていません。したがって、奥さんが心を込めて弁当を作ってくれても、それはGDPには載りません。しかし、外国では共働きが普通で、妻はコンビニで働き、夫がコンビニ弁当を食べたとします。コンビニの弁当はGDPに載るので、外国の方がGDPが大きくなります。最近では心を込めて弁当を作ってくれる奥さんが減っているので、これは読者の共感が得にくかったかも知れませんが(笑)。

 冗談はともかくとして、A婦人がB家の掃除を請け負い、B婦人がA家の掃除を請け負って報酬を受け取ると、GDPが増えるのです。A家もB家も生活水準は変わらないのに、です。GDPというのは、そういうものだ、という事は覚えておきましょう。

 日本は、女性の社会進出が遅れているので、こうしたことからも諸外国と比べてGDPが小さく見える一因かも知れません(全く働いていない専業主婦の場合は、労働者数の計算に入りませんから労働生産性の計算にも入りませんが、パートで少しだけ働いている専業主婦の存在は、日本の労働生産性を計算する際に生産性を低く見せる要因となりかねないのです)。

実際に労働生産性が低い面もあるが、遠からず改善するはず

 上記の要因をすべて割り引いて考えたとしても、実際に日本の労働生産性が低い面は、確かにあります。しかし、今後の日本経済は、少子高齢化による労働力不足が深刻化して行きます。そうなれば、おのずと生産性が向上していくメカニズムが働くはずです。これまで、安価な労働力が豊富に使えたため、生産性を向上するインセンティブが乏しかった日本企業が、今後は生産性向上に尽力するからです。期待しましょう。

  
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