最近、働き方改革の関係で、日本経済の生産性の低さを嘆いた記事をしばしば見かけます。生産性はGDPを労働投入量で割って求めるので、「働いているのにGDPが増えない」ことを嘆いているわけです。
たしかに、バブル崩壊後の日本経済は長期低迷により成長が止まっていましたから、諸外国と比べた生産性向上速度が遅かったことは間違いありません。しかし、それでも水準として見れば、日本の生産性は未だ諸外国より高いと思います。計測方法が不適切なので、日本の生産性の高さが統計に表れないのです。今回は、この問題について考えてみましょう。
GDPとは、生産された付加価値の統計です……初心者向け解説
GDPというのは、国内で生産された付加価値の統計です。付加価値というのは、「各社が自分で作り出した価値」のことです。部品会社が30万円の部品を作り、それを仕入れた自動車会社が100万円の自動車を作り、それを仕入れた自動車販売会社が消費者に120万円で売ったとすると、部品会社の付加価値は30万円、自動車会社の付加価値は、100万円から部品仕入代金30万円を差し引いた70万円、自動車販売会社の付加価値は120万円から仕入代金100万円を差し引いた20万円となります。この場合、GDPは各社の付加価値を合計した120万円になります。
自動車販売会社は、特に何かを作り出したわけではありませんが、ショールームに車を置いたりパンフレットを配ったりするサービスが価値を産んでいる、という理解をするわけです。販売会社が存在しなければ、せっかく作った車が売れずに埃をかぶってしまうわけですから、彼等の仕事も当然に評価されるべきなのです。
余談ですが、この国のGDPは、部品会社等の生産者に聞かなくても、消費者に聞いても求める事が出来ます。「120万円分の自動車を買いました」という消費者がいれば、「誰かが120万円分の自動車を作ったのだろう」と推測できるからです。もちろん、買ったのが輸入車であった場合は数えないようにする、といった調整は必要ですが。
国際比較の際、物価を調整する場合としない場合がある……初心者向け
日本の理髪料金が2000円、中国の理髪料金が50人民元だとします。単純に計算すれば、各人が理髪サービスを受けるごとに、日本のGDPは2000円増え、中国のGDPは50人民元増えます。50人民元というのは、今の為替レートで計算すると850円程度です。通常、各国のGDPを比較する場合は、このように為替レートで換算します。
この方法は便利なので、しばしば使われますが、為替レートが大きく動くと、経済実体が何も変わらないのにGDPの順位が大きく入れ替わったりします。たとえば今は米国の方が日本よりGDPが大きいですが、円高ドル安になると、米国のGDP(ドル建て)を日本円に換算した数字が小さくなるので、米国のGDPが日本より小さくなるかも知れません。もちろん、米国は日本より人口が多いですから、両国のGDPを人口で割って一人当たりのGDPを比べる必要がありますが。
一般に、GDPが高い国は賃金も物価も高いので、一人当たりGDPが日本の2倍あったとしても、生活水準が2倍だということは稀です。為替レートが割高なので、GDPが大きく見えているだけ、という部分も大きいからです。反対に、途上国は貧しいと言っても、数字でみるほどは生活水準が低くないのが普通です。途上国は、「為替レートが割安なので物価も賃金も低い」のが普通です。そのせいで、生活水準の低さ以上にGDPが小さく見えているだけ、という部分も大きいからです。
このように、各国のGDPを為替レートで換算する事には問題もあるので、一工夫しよう、という試みがなされる場合もあります。どちらの国民も理髪サービスを一回受けているわけですから、両国のGDPが同じになる「べき」だという考え方です。その場合には、1人民元を17円で計算するのではなく、「日本と中国の物価水準が同じになるような為替レート」である40円で計算してやるのです。こうした考え方を「購買力平価で計算した各国のGDPの比較」と呼びます。
購買力平価でGDPを計算してやれば、日本人と中国人がそれぞれ何回理髪サービスを受けたかが比較できるので、どちらの国が多くのサービスを作り出したのかが比較できます。もちろん、中国は日本より人口も労働者数も多いですから、両国のGDPを人口で割って一人当たりのGDPを比べ、GDPを労働者数で割って労働生産性を比べる必要がありますが。