2024年11月23日(土)

Wedge REPORT

2010年9月24日

惑星探査等々、サイエンティフィックな学術的意義に重きを置く「宇宙科学」は、人々に希望を与え高い技術力を示すことにも貢献しますが、限られた予算のなかで学術的意義に重きをおくわけにはいきません。宇宙科学プロジェクトの是非を判断するポイントになりうるものは、どのようなものだとお考えでしょうか。

――宇宙科学は直接経済的な効果を生むわけではありませんが、しかし、国際社会において宇宙科学が生み出す無形の影響力や資産は、直接的な効果よりもはるかに大きなものをもたらすことがあります。「はやぶさ」がこれだけ話題になるのも、そうした宇宙科学の社会的な意義を示しているのではないでしょうか。

 しかし、宇宙科学のプロジェクトを決定する場合は、科学者同士の主体的判断において行うばかりではならないと思います。(1)国際的、社会的な影響力(世界初、人類初といったインパクト)、(2)技術的な可能性 (3)ミッションの学術的な意義という三つの評価をきちんとやるべきだと思います。

 宇宙科学プロジェクトについては、宇宙開発戦略本部よりも、文部科学省の宇宙開発委員会が中心的な決定組織として機能してきた経緯があるので、そうしたプロセスには疑問が残ります。

 予算全体を見ると、半分以上が文部科学省のものであり、日本の宇宙開発が依然研究開発に留まる印象です。利用に向けた推進には、どのようなことが必要だとお考えでしょうか?

――研究開発は宇宙を開発するうえでの基礎となります。宇宙という地球から離れた場所を開発するのに、理論と技術の両面においてこれを取り除くことはできません。その部分を担当する文科省に大きな予算がつくことは、仕方がない部分もあります。

 むしろ問題となるのは、利用関連の予算が少なすぎることですが、こうした状況を改善していくために必要な枠組みは、次第に出来上がりつつあります。つまり、すでに宇宙基本法があり、宇宙開発戦略本部という司令塔が建っているわけです。大事なことは政治家が、こうした仕組みを使って、利用に予算をつけるという努力をしなければなりません。

宇宙をインフラとして利用する時代へ

 前世紀とは違い、宇宙はすでに私たちにとって近い場所となっている。これからの国家戦略には、宇宙という場の利用をも想定していくことが必要であり、政府もその認識を新たにしている。だからこそ、戦略実行のための予算がきちんと利用に振り向けたものになるかどうかを気にしておく必要はあるだろう。

 日本とは違い、ヨーロッパでは最初から利用創出を織り込んで宇宙計画が立てられている。現在、ヨーロッパの宇宙開発は、プログラム第7期(2007~2013年)の最中。今期では宇宙利用におけるテーマを設け、「健康」「情報・通信技術」「環境」「運輸」など10テーマに貢献するための利用プログラムを進めている。設定する目標は、あくまで社会への還元である。

 新成長戦略が位置づけたとおり、宇宙産業は国家成長をもたらすポテンシャルを有している。新成長戦略へのロードマップを肉付けし、豊かで安心・安全な社会を構築するために、一元的な宇宙開発利用を推進していくことが必要である。
 

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