世界中でハイパーループ建設計画を進めるハイパーループ・ワン社が社名を変更する。数カ月以内に正式名称を「ヴァージン・ハイパーループ・ワン」と改める予定だという。この名前からわかるように、ハイパーループ・ワン社には新たに強力なスポンサーが現れた。英国のヴァージン・グループだ。
ヴァージン・グループはヴァージン航空のほかバージン・モバイル、メディアなど様々な企業のコングロマリットで、それを率いるのはリチャード・ブランソン氏。ブランソン氏は新たにハイパーループ・ワンの経営陣に加わり、今後バージンが持つ航空網とハイパーループを組み合わせた新しい人と物流のための交通手段を提供する方針だという。
ハイパーループ・ワンから見て今回の提携はハイパーループという未知の乗り物がヴァージンという巨大ブランドの傘下となることで、世界的な知名度が上がり信用度も増す、というメリットがある。これまでハイパーループに対して懐疑的だった層も、巨大企業が参画することでいわゆる「クレディビリティのある企業」だと認識することになる。もちろん資金面でもヴァージンの協力が得られることで、一気に開発が加速する可能性もある。
一方、ヴァージン側から見ればどのようなメリットがあるのか。バージンは傘下に「ヴァージン・ギャラクティック」という企業を持ち、民間の宇宙旅行計画にいち早く乗り出した企業でもある。最近テスラ社のイーロン・マスク氏が提唱し、話題となった「航空機を大気圏外にまで打ち上げそこから目的地に降下することにより、世界中のどこにでも30分で行けるようになる」という計画も、実はヴァージンがマスク氏以前に発表していた。
しかし、スペースXを立ち上げ順調に米軍からのロケット打ち上げ契約も取り付ける、など発展を見せるマスク氏側に対し、ヴァージンはスペースシップ2の打ち上げ失敗などで計画の延期が続いている。
現在民間のロケット開発で著名なのはマスク氏、ブランソン氏、そしてアマゾンCEOであるジェフ・ベソス氏の3人。この3人、様々な分野で競合する関係でもある。アマゾンはドローン宅配という部分から無人のデリバリーサービスを提唱するが、これには自動運転車両も深く関わってくる。自動運転は言うまでもなくマスク氏のテスラが熱心に取り入れている部分だ。
またマスク氏は小型衛星を多数打ち上げて全世界に低価格のインターネット網を構築する、というプランを持つが、ベソス氏の宇宙ロケット会社である「ブルー・オリジン」、そしてヴァージン・ギャラクティックも同様の計画を発表し、それぞれがしのぎを削る関係だ。もちろんロケット打ち上げ、そして民間の宇宙旅行でもこの3人はライバル関係と言える。
そのライバルの一人であるマスク氏がアイデアを出したハイパーループにブランソン氏が力を貸す、というのは一見奇妙な構図ではあるが、マスク氏はハイパーループに関してはオープンソースとし自らの権利を主張していない。「自分は忙しすぎて実現する時間がないので、誰かにアイデアを実現してほしい」というのがマスク氏の主張である。つまりハイパーループ・ワンとマスク氏の間に直接の関係はない。