2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2017年10月18日

露中の原発輸出攻勢を警戒せよ

 福島原発事故以後、日本は国内だけでなく国際的にも原子力の分野では全く影の薄い存在になってしまった。実は、同事故のわずか4カ月前にベトナムへの「日の丸原発」輸出が決まり(日越合意に署名したのは時の首相菅直人氏)、さあこれからという矢先に、日本は原発国際商戦から脱落してしまった。その後東芝事件でダメ押しとなった。同様にフランスも、前記の通りアレバ社の低迷で、かつての勢いを失ってしまった。

 もう一つの新興原発大国である韓国も、李明博政権時代に中東のアラブ首長国連邦(UAE)との原発契約獲得により、目下韓国製原発4基を建設中で、ここ数年以内に順次操業開始が確実視されており、日の出の勢いであったが、今夏登場した文在寅大統領が突如脱原発を発表したため、国内が大混乱に陥っており、一気に失速した感じである。

 こうした状況の中で、いやでも目立つのはロシアと中国の元気さである。プーチン大帝の指揮の下でロシアの原子力産業が相変わらず快調なのは周知の通り。世界各地で原発新設を受注しているが、特にアジアでは、冷戦時代から付き合いのあるインドの他、バングラデシュ、ミャンマー、インドネシアなどでも新規契約を結んでいる。日本が撤退したベトナムでも、仕切り直しで、新たに研究炉の建設を受注し、着々と地歩を固めているようだ。

 それより刮目すべきは中国だ。国内だけで将来は200基以上建設する計画で、遠からず米国を抜いて世界最大の原発大国になることは確実だ。軽水炉だけでなく、高温ガス炉、高速増殖炉、トリウム溶融塩炉などの分野でも、ロシアと覇を競っている。こうした国内の活発な活動を背景に、国際的にも進出の機会を虎視眈々と狙っている。冷戦時代から同盟国関係にあるパキスタンにはすでに中国製の原子炉が稼働しているが、さらに新型炉を建設しつつある。他方、前述のように英国や東欧諸国(旧共産国)への中国製原子炉の輸出にも異常なほどの執念を燃やしている。アフリカではウラン開発の分野にも熱心に取り組んでいる。

 中国のような人口大国でエネルギー多消費国がCO2排出削減のため原発の拡大に努めていることは、地球温暖化防止の観点からも望ましいことであるのは確かで、そのこと自体を咎めるつもりはない。しかし、原発の安全性とか、核拡散防止という観点から見て、手放しで中国の動きを称賛し、声援を送るわけにはいかない。核不拡散条約(NPT)で核兵器開発・製造を公認され、国連安保理常任理事国として拒否権を与えられた、特権的な地位にある中国が、原子力の分野で果たして責任ある行動をとるかどうかは、常に十分監視されなければならない。中国製の原子炉が安全面で明らかに劣ると決めつけるつもりはないが、東シナ海を隔てて至近距離の隣国であるからには、日本人として中国国内の原子力活動に関心を持つのは当然であり、また、中国が東南アジア諸国にどういう形で原子力協力を行うかは、大いに懸念されるところだ。間違っても、核拡散防止の面で不用意かつ不適当な行動をとれば、累はアジア全体、否、世界全体に及ぶ。

日本の政治家は国際政治にも十分な目配りを

 憚りながら筆者はたまたま外交官として、退官後は核・原子力問題研究者として長年原子力分野におけるロシアや中国の行動を仔細にウォッチしてきたが、その経験から少なからぬ懸念を抱いている。日本の反核・反原発運動家やマスコミは、日本の原発輸出には非常に厳しいが、中国のこうした面での行動には情報不足のためか、あるいはイデオロギー的な理由のためか、あまり問題意識を抱いていないようだが、それでは困る。

 実は、米国のアジア通や知日派――例えば、日本でも有名なR・アーミテージ(元国務副長官)、J・ナイ(ハーバード大学教授)、J・ハムレ(安全保障国際問題研究センターCSIS所長)等――がしばしば強調するのも、まさにこの点である。彼らは、3.11以後、日本国内の性急な脱原発論の高まりを憂慮し、盛んに警鐘を鳴らしたが、それは、脱原発により日本の国力が低下し、日米同盟関係が十分機能しなくなることへの懸念からだけでなく、上記のような、中国やロシアによる不適切な行動(具体的には、相手国に対して安全性や核不拡散のための条件や規制を甘くするなど)によって、国際的な核拡散防止体制に緩みや歪みが出ることへの懸念という国際政治上の理由からだったと思う。

 つまり、そのような不明朗かつ不健全な国際状況の出現を防ぐためにも、日本が「安全で平和目的に徹した原子力プレーヤー」として国際的に活動し続けてもらいたいという強い期待があるからだ。日本の政治家諸侯は国内的な配慮や目先の利害だけでなく、是非こうした国際政治的な側面にもしっかり目配りをしてほしいものだ。このことを小池、小泉両氏にも強く期待し、要望する次第である。

  
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