「損」の東正横綱はもちろん希望の党代表の小池百合子都知事。
開票日の夜、出張先のパリからテレビ出演した小池氏はやつれを隠せなかった。小池新党の敗因については、すでにさんざん論じられているので、繰り返す必要はなかろう。ただ、「排除」という言葉が反発を買ったとか、「上から目線」だったとか、そういうこともさることながら、口にこそ出さなかったものの、有権者がこれまで抱いてきた「なんかヘンだ」という反小池感情が一気に噴出したとみるべきだろう。
都議会のドン放逐など、“ケンカ上手”は認めるとして、築地市場移転問題にみられるように指導力、決断力の欠如、それをスター並みの容姿、ふるまいで幻惑してきたことに有権者が気づいたというべきではないか。
小池氏は「都政に邁進する」と、今後国政から距離を置く考えを示したが、都知事ポストは彼女にとって、国政、もっといえば内閣総理大臣へのステップではなかったか。ステップが不要になったかにもみえるが、いまは都民のため知事職に専念してほしい。
西の横綱は、やはり前原氏にご登場願おう。
民進党出身の当選者数が、改選前を上回ったと聞いて、前原氏は今ごろ歯ぎしりしているのではないか。もちろん、すべての候補者が従来通り、民進党の看板で戦ったとしても当選できたかは即断できないが、「余計なことをすべきではなかった」と考えたとしても不思議ではない。
「小池にだまされた」という怨嗟の声が浴びせられているが、そもそも、両者が合体問題を話し合う過程で、「排除」の話はなかったのだろうか。小池氏が最初から、リベラルな人は公認しないという方針を伝え、それを前原氏が党内に説明していたら、希望の党との合体が承認されることはなかったろう。リベラル排除については、当初から両者で暗黙の了解があったという指摘も一部でなされているが、そうだとしたら、前原氏も罪は重い。
今回の問題で、前原氏の政治生命は大きく傷ついた。かつて、民主党代表時代に、党所属議員が偽メールを基に国会で自民党を攻撃し、前原氏が後に謝罪したということがあった。脇の甘さがあるようだ。
しかし、民主党繁栄の一時期を担った逸材だけに、存在が再び注目されるときも来るだろう。
横綱級に比べると、大関以下の顔ぶれは大物ぞろいではあるが、損得の度合いははるかに及ばない。
「得」からみていくと、大関は菅直人元首相と小野寺五典防衛相。管氏はご存じ、前回比例復活で最後の当選者となり、元首相落選という不名誉をかろうじて免れた。今回は立憲民主党の最高顧問におさまり、新党の人気が追い風となって、小選挙区で自民党の宿敵を破った。賞味期限切れの復活には本人も照れくさかろう。そんな「含羞の人」ではないか。
小野寺氏は、北朝鮮情勢に備えるために、選挙中も東京から離れることができなかったが圧勝した。もともと選挙には強いが、気が気ではなかったろう。選挙期間中も、自衛隊機の事故現場で捜索の指揮を執るなど、職務に誠実に取り組む姿勢が評価され男を上げた。
関脇の野田元首相は、希望の党にいち早く走った細野豪志元環境相から「三権の長の経験者はご遠慮願いたい」と「排除の論理」をつきつけられた。「先に離党していった人の股をくぐるつもりはない」と言い放ち、毅然として無所属で戦った。開票日には「新党にはさわやかさや痛快さが必要だが、残念ながら、どろどろしたものが出てしまった」と希望の党を切って捨て、誇り高いところを見せた。
進次郎氏も選挙期間中、颯爽としたイメージで各候補の応援に駆けつけ、大勢が判明した直後にはテレビ番組で、「全国で感じたのは(政権への)飽きですね。加計問題を含めて不信感を持っている人が相当いる」と述べ、大勝ムードの中でも臆することなく首相批判を口にした。溜飲を下げた人も少なくなかったろう。
不倫スキャンダルで離党した山尾志桜里氏は苦戦したが、他の野党候補がいなかったこともあって議席を守った。選挙後、選管に的外れの抗議が殺到しているというから、それほど批判が強かったということだろう。
小沢氏は野党結集をめざして自由党籍のまま無所属で出馬し当選、参院議員とあわせて国会議員5人以上という政党要件を満たし、党を存続させた。〝過去の人〟などという陰口もあるが、野党結集のためにいまだ画策するあたり、なお影響力があるとみるべきか。
前頭の2人のうち、稲田氏が番付にのぼったのは説明せずとも理解していただけよう。石川香織氏は北海道11区で初当選した。小沢一郎氏の政治資金管理団体「陸山会」の政治資金規正法違反事件に連座した石川知裕元衆院議員の妻で、公民権停止中の夫に代わって出馬した。相手は財務相、自民党政調会長などを歴任した故中川昭一氏の妻、郁子氏。「元議員の妻対決」と注目を浴びたが、みごと現職を破った。