前出の2人体制で縫製しているバングラデシュのように、いくら人件費が安くとも、技術力があまり高くない状況に対応するために、例えば、ファーストリテイリングは、日本の職人を現地へ派遣して技術指導を行う「匠プロジェクト」によって、現地の技術力を高めてきた。またこのプロジェクトでは、技術指導だけでなく、工場の立ち上げから、納期を守るなどのモラル面も含めた様々な点で細やかに指導を行う。
また別の衣料品メーカーでは、「現地に社員を派遣しての技術指導だけでなく、現地の労働者を日本に呼び寄せ、自社工場での研修を実施している」と言う。それには、「日本に来て、日本のマーケットを肌で感じてもらうことで、その質の高さを実感し、自分たちがなぜ高品質な製品を作ることを求められるのかを実体験として理解してもらう」という意図がある。
「当たり前」のことも、きちんと教育する
さらに細かな部分の話になると、やはりそれぞれの国で文化や価値観は異なるもの。「本当に些細な点ですが、値札の貼り方や検品方法、工場内でのダンボールの並べ方や窓の開閉についてなど、日本では当たり前と思っていたことでも、特に発展途上の国の労働者ほど言われなければ分からないことは山ほどあります。こういった小さなことも、根気よく伝えていく必要があるのです」と述べる担当者もいた。
技術指導はもちろん、運営や管理の面で、どんな小さなことでもしっかりと指導していくことによって、新たな生産拠点に移っても、スムーズに人が育つ土壌を作れる。それに加えて、国によってはインフラの整備やマーケットの拡大などの追い風もある。おそらく現在のアパレル業界の多くの企業は、中国一辺倒の状況を変えようとしている「過渡期」にあたる時期であろう。第三国が、中国と同じようなレベルの生産拠点になるまでには当然時間がかかるが、今できることから少しずつ始めていくことで、いつか第二の中国となる生産拠点を生み出すことを期待したい。
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