2024年7月16日(火)

Inside Russia

2017年12月7日

 2014年のクリミア半島併合以降、欧米から経済制裁措置を受け、経済情勢が悪化している中で、プーチン大統領が国内統一を図るために残されている手段は少ない。ソ連時代を生きた守旧派に居心地の良い反米精神を改めて訴えることは、求心力を高める上で一番の近道なのである。

 しかし、ソ連崩壊後20年以上が過ぎ、曲がりなりにも民主的な選挙が行われ、ネットでは自由な言論空間が保たれている状況では、絶対権力者の皇帝でさえ、ソ連時代を知らない若い世代やリベラル派にも耳を傾けなくてはならない。

 ネット系メディアで取られている世論調査では、「例え中立選手としてもロシア人選手が平昌五輪に出場すべきか」という問いかけに、57%が行くべきと答えている。「行くべき」の選択肢にはメドベージェワの顔写真が掲載され、「行くべきではない」の選択肢にはプーチン大統領の顔写真があり、プーチンVSメドベージェワの選択肢になっている。この問いかけを出した編集者が政治とスポーツを切り離して考えるべきだとメッセージを送っているようにも思える。

 別のニュースでは記事の見出しで、「スポーツ選手に愛国者なら五輪に行くな」と迫るのは「地獄だ」とも記されていた。

再びの五輪ボイコットがもたらすリスク

 東西冷戦下の1984年にソ連は、前回のモスクワ五輪での報復措置として、ロサンゼルス五輪への出場をボイコットした。その後、ソ連はゴルバチョフ書記長がペレストロイカに挑んだが、末期的症状がひどくなり、国家体制が崩壊した。来年3月の大統領選挙を控え、もし平和の祭典である五輪を再びボイコットすれば、ロシアは国際社会からますます孤立化してしまう。民衆に蓄積された不満はやがて政府批判へと転化して、体制維持の大きな障害となる――。中立選手としての出場容認は、そうした高度な政治判断が働いたのは想像に難くない。だからこそ、プーチン大統領は守旧派を制してまでも、強硬的選択肢を排除し、選手の自由を認めたのだ。

 ロシアの英雄であるプルシェンコはさっそく「ボイコットすべきではない。チャンスを失ってはならず、五輪に行かないのは正しくない」と語った。

 浅田真央の元コーチ、フィギュアスケート界の重鎮であるタチアナ・タラソワは「いずれにせよ、ロシア人の選手は勝利する。国歌を歌う」と話した。

 2月、韓国・平昌でどんなスポーツドラマが待っているかはわからない。しかし、確実に言えるのはプーチン大統領や取り巻きたちが翌月に控えた選挙の勝利のために、五輪を利用した政治パフォーマンスを行うことは間違いないということだ。

 ロシアには「ステートアマ」と呼ばれたソ連時代のメダリストと同様、五輪のメダリストには一生を保証する制度がある。メドベージェワが金メダルを取ったとき、果たして、プーチン大統領はどんな声明を出し、どんな褒賞を与えるのであろうか。
 

  
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