トルコのエルドアン大統領とロシアのプーチン大統領は首脳会談に踏み切り、悪化していた関係修復に乗り出した。両者ともクーデター未遂事件やリオ五輪のドーピング問題などで西側と対立しており、反欧米路線で利害が一致、“独裁者”として知られる2人が連帯を示した形になった。
プーチン・カード
両国関係は昨年11月、シリア内戦に参戦していたロシア軍のSu24戦闘機がトルコ軍機に撃墜された後から悪化した。プーチン大統領は「テロリストの共犯に背中を刺された」とトルコを非難、トルコからの農産物の輸入禁止、トルコへのロシア人観光客のチャーター便の運行停止などの厳しい経済制裁に踏み切った。
またロシアから黒海を経由してトルコに至る天然ガス・パイプラインの建設、ロシア国営企業が受注したアックユ原発の建設計画が凍結状態になった。プーチン氏は撃墜が過激派組織「イスラム国」(IS)からの石油密輸ルートを隠蔽するためと非難、これにエルドアン氏も証拠があるなら出せと、罵り合うまでにエスカレートした。
しかしトルコではISによるものと見られるテロが続発したこともあって収入源である観光客が激減、特にドイツに次ぐ観光客の多さで知られるロシア人は前年比90%も減った。経済的な苦境に陥り、シリア問題でもロシアの支援を必要とするエルドアン氏は6月、プーチン氏に書簡を送り、撃墜を謝罪した。
そこで降ってわいたように起こったのが7月のクーデター未遂事件だ。エルドアン氏はクーデターの黒幕が在米のイスラム指導者ギュレン氏と断定し、米国に身柄の引き渡しを要求したが、米国は事実上これを拒否。このためトルコ国内では、クーデターの背後では米国が糸を引いているという非難が広がった。
欧米各国はエルドアン氏がクーデター未遂事件後、ギュレン派の大量逮捕、公職追放を断行し、死刑制度復活の方針を示すなど独裁色を一気に強めたことを批判、これに同氏が反発し、米国や欧州連合(EU)との対立が激化した。
プーチン氏にとっても、北大西洋条約機構(NATO)の一員であるトルコとの関係修復は欧米をけん制する上で有効なカードであり、ロシアの描くシナリオ通りにシリア問題を解決するには、シリアの隣国のトルコの協力が欠かせない。
特にロシアは欧米とは長引くクリミア、ウクライナ問題での対立のほか、リオ五輪絡みで発覚した国ぐるみのドーピング事件で対決状態にある。プーチン氏はドーピングがロシアをおとしめようとした欧米の陰謀と主張し、この問題では国際的に孤立していた。
エルドアン、プーチン両氏とも欧米との対立を抱える中で、関係改善の利害が一致したということになるが、特にエルドアン氏のメッセージは明白だ。「“欧米がトルコへの支援やそのやり方を尊重しないのなら、プーチンと一緒にやる”として、“プーチン・カード”を切ったのだ」(ベイルート筋)。