2024年12月3日(火)

田部康喜のTV読本

2018年1月19日

 斉彬が、西郷の郷中と他のそれとのけんかのなかで、西郷が年下の者を守りきれなかったのをみて、「やっせんぼ」とたしなめる。薩摩弁で臆病という意味である。

 「かよわき者の声を聞く心優しき者の時代がくる」と、斉彬はいう。

 西郷はふたたび、他の郷中の争いのなかで、棒切れをもって相手に挑む。薩摩藩の掟で、郷中の争に刀を抜いてはならない決まりがある。相手は刀の刃を鞘に入れたまま、木刀のようにして西郷に挑む。打ち合いのなかで、鞘が壊れて刃が西郷の右肩に食い込む。西郷の肩は上がらなくなり、剣術で身をたてることを断念しなければならなくなる。

 維新の立役者として明治新政府の参議となり、ただひとりの陸軍大将までのぼりつめた西郷は、実は幾度も挫折を繰り返して、自殺を図ったこともある。

 西郷の人気は、こうした苦難を乗り越えた人生と、人の意見をよく聞く清廉潔白とされる性格によるところが大きいだろう。ドラマは、そうした西郷の軌跡をいまのところ、忠実にたどっているようにみえる。

経済官僚としての経験に光を当てる

 第2回「立派なお侍」では、農村の年貢などを記録する「郡方書役助(こおりかたかきやくすけ)」となった時代を取り上げている。明治維新につながる奥羽越列藩同盟との戊辰戦争や西南の役における軍事的な側面が強い西郷であるが、経済官僚としての経験にドラマは光りをあてた。

 凶作に苦しむ農民のために藩政を改革しようとする、西郷の活動が藩の政争とともに描かれている。

 斉彬(渡辺)は、父で藩主の斉興(なりおき、鹿賀丈史)に英米の攻撃に自藩の防衛を整えるともに、幕府にも建議するように説得する。

 ところが、斉興は、「そんなことを幕府に建議すれば処分がくだる。そちに藩政を任せることはできない」と断じる。

 さらに、側室の由羅(ゆら、小柳ルミ子)の息子で、斉彬の弟である久光(ひさみつ、青木崇高)を「藩主名代」つまり、ナンバー2にする。

 政争にいったんは敗れた斉彬だった。しかし、薩摩から江戸に戻る際に、家来の赤山鞆負(沢村一樹)に次のこう語りかけるのだった。

 「幕府は、薩摩に不信のことありと考えている。琉球の問題であり、密貿易である。いずれ、父上にはその責めを負っていただく」と。

 政権交代の予言である。

 ドラマは、幕末を彩る女性群もこれから描いていくことになる。

 西郷の妹役には、桜庭ななみである。鹿児島出身の美少女は、時代劇映画「最後の忠臣蔵」(杉田成道監督、2010年)で注目された。忠臣蔵の大石内蔵助の隠し子の可音役であった。大石の家来で可音の養育を任された瀬尾孫左衛門役は、役所広司。可音は「孫左(まござ)」と呼ぶ。大商人の家に嫁入りが決まった可音が、孫左衛門に「このまま孫左といっしょに暮らしていけないのか」と語りかける。ロウソクの炎に浮かび上がる可音の美しい横顔は、本作の名シーンである。

 幕末に薩摩藩から徳川に嫁入りして、篤姫(あつひめ)とよばれるようになる於一(おいち)役に北川景子、西郷が島流しの刑にあったときに結ばれる愛加那(あいかな)役に二階堂ふみが起用される。
 

  
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