ツイッターを駆使する北京の人権派弁護士・李方平氏は「知らない者同士が瞬時にやり取りでき、多くの人が大衆行動を起こせる」とツイッターのメリットを挙げる。天安門広場で民主化要求運動が爆発した89年には固定電話とファクスしかなかったが、今や広場がなくても「ネット」という広場で公然と民主化や人権改善を要求できる時代になったのだ。
ユーザー5000万人 検閲に限界も
いわば中国当局にとって自分たちの管理外となるツイッターは厄介な存在であり、これをアクセス不能にした後、代わりに登場させたのが、中国版ツイッター「微博」だ。現在最もユーザーの多い大手ポータルサイト「新浪網」が運営する「新浪微博」は09年8月28日にスタートし、ユーザーは5000万人を突破した。微博も140字以内でつぶやき、「リツィート」や「フォロワー」などの仕組みはツイッターにそっくりで、「中国版」と言うべきものだ。
ただ微博がツイッターと根本的に異なるのは、中国当局が管理するため、当局の検閲が避けられないことだ。
天安門事件や劉暁波氏など政治的に敏感な発言は削除される。しかしつぶやいた数分後には、洪水のごとくコメントが押し寄せるため、ネット管理員によるチェックに限界も生じ、比較的自由な言論空間が実現しているのも現実だ。
日中関係悪化よそにフォローされ続けた蒼井そら
微博のすさまじさの一例を挙げよう。中国で有名な日本のAV女優・蒼井そらさんの新浪微博をのぞくと、フォロワーは87万人。彼女のツイッターのフォロワーは14万人だから、中国での人気は飛び抜けている。蒼井さんが新浪微博に登録したのは、昨年11月11日だが、わずか24時間で22万人がフォローしたという。ちょうどその時期、尖閣問題で日中関係が冷却化する中、菅直人首相はAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が開かれた横浜で胡錦濤国家主席との会談を実現しようと奔走していたが、中国ネット空間ではこんな両国の政府間関係はどこ吹く風か、日本のAV女優の動向に関心を持ち続けた「民」がうごめいていたのだ。
筆者は『文藝春秋』2月号で、実際に新浪微博を利用し、「好きな日本人は誰か」など単純な質問を直接、「網民」にぶつける調査(「四億網民電脳調査 中国版ツイッターの対日観」)を行ったが、まさに「百家争鳴」な議論が展開された。
「自分メディア」形成 新聞超えた微博
今や党機関紙・人民日報、新華社通信、国営中央テレビなど伝統メディアまでもが「新浪微博」を通じて情報を発信する時代。中国誌『南風窓』(ネット版、10年12月18日)は「微博:新技術の素晴らしさと危険性」と題したコラムでこう解説している。
「2010年の微博の出現は従来と異なったものであり、中国人の公衆生活を推進かつ形作る上で最も有力な武器になったのは疑いない。時機にかなってネットの最も魅力ある二大価値である自由と平等を担うようになった」
同誌はさらに「2年前、人々は情報伝達の手段としてネットは、厳格な編集を通した新聞を打ち負かすことができるかどうかと論争したが、今やその問題は既に討論する必要は完全になくなった」と続ける。昨年11月に上海中心部の28階建て高層マンションで発生した火災で58人が犠牲となったが、発生6日後の日曜日、火災現場には犠牲者を哀悼しようと花束を持って市民が長蛇の列を作った。その数は10万人。市民は政府の対応に不満を強め、献花に静かな抗議を込めたわけだが、微博やツイッターを通じて情報が次々と伝達され、当局が最も神経を尖らせる大衆行動に発展した。結局、警察や政府も「民」のパワーに押され、市民の献花を認めざるを得なかったのだ。