新華社通信発行の時事問題誌『瞭望』(10年11月8日)も、「微博」について「各個人が『自分メディア』を形成し、各人が情報の生産者かつ消費者になった。微博は事実上、突発事件の世論伝達センターになった」と認めている。調査結果によれば、ユーザーの37%は微博上の情報を基本的に信頼しているという。
同誌は「今後、さらに多くの人たちが『上訴不如上訪、上訪不如上網』を選択するだろう」と予測する大学教授の指摘を掲載した。つまり中国では「上訴」(裁判所への提訴)より「上訪」(上部機関への陳情)の方があてになるが、「上網」(ネット上での発言)は「上訪」より効果的だというのである。
自由にモノ言う快感覚えた「民」
「百花斉放、百家争鳴」(1956年の言論自由化キャンペーン)や文化大革命(1966~76年)、そして天安門事件など大衆運動の怖さを思い知る中国国家指導者。中国民衆はひとたび同じ方向を向くと、底知れぬパワーを爆発させ、社会は混乱をきたす。
中国共産党は、闊達な言論空間をどう管理していくのだろうか。劉暁波氏が主要起草者となり、一党独裁を「党天下」と批判した「08憲章」に対する断固たる措置や、劉氏のノーベル平和賞が決まった昨年10月以降の徹底した知識人弾圧を見れば、胡錦濤指導部がどれだけ「民の言論」に怯えているか分かるが、政治局常務委員会で宣伝工作を担当する李長春は今年1月4日の「全国宣伝部長会議」でこう訴えた。特に今年は中国共産党創設90周年の政治的に敏感な年だ。
「共産党成立90周年祝賀などの重大な宣伝教育活動を契機にし、社会主義の核心的な価値体系建設を大々的に推進し、宣伝思想文化の陣地の建設・管理を切実に強化し、社会主義伝達の先進文化を確保しなければならない」
共産党は、自分たちの統制が及びにくいネット世論に対し、明らかに宣伝(プロパガンダ)で対抗し、一党独裁体制という譲れない一線を堅持しようとしている。しかしそれには限界があることも熟知しており、現実的な手法も駆使する。例えば、警察機関が微博を通じて網民と交流する「公安微博」の流行は極めて興味深い。
警察が市民に情報提供するだけでなく、市民からの情報で事件の端緒にしたり解決につなげたりする狙いのほか、ネット上でデマや噂が流れると即座に打ち消し、社会の秩序や安定を維持する大きな目的を込めているのだ。中国メディアによると、全国の500近い公安機関が既に微博を開通させ、北京市公安局の新浪微博のフォロワーは34万人、広東省公安庁は50万人に達しているという。
中国社会はこれまで「モノを自由に言えるが、それを表に出すことはできない」と言われた。しかし微博やツイッターの急速な普及は、中国社会に変革をもたらす情報革命であり、モノを自由に伝えることの快感を幅広い民衆に覚えさせた。貧富の格差やインフレ、司法の腐敗、立ち退きなど、社会の矛盾がますます尖鋭化する中で、モノを言いたい民衆はどんどん増えていくのは間違いない。胡錦濤指導部は果たして「民」の自己主張をどこまで許容するのか、そしてどこまで抑えることができるのか、2011年の大きな見せ場となるだろう。
◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜