とある企業の人事担当者がこんなことを言っていた。その企業は従業員200名のIT系企業で、創業10年に満たないが、業績は右肩上がり。3年前から新卒採用をはじめている。
「昨年新卒でうちに入ってくれた新人5人のうち2人がもう辞めてしまいました。面接のときはやる気もあって、うちでやりたいことをあつく語ってくれていたんですけど、『入ってみたら思っていたのと違う』、『ここではやりたいことができない』というのが理由でした。最近では中学や高校からキャリア教育を盛んにやっていると聞きます。でもあんな子たちを見てるとどうしても、『企業で働いたことのない先生にキャリア教育なんてできているのだろうか?』、『職場をちょっと体験しただけで分かることはやっぱり限られている!』って思っちゃいますよ。夢ややりたいことばかりではなくてできることを増やさないと社会人ではやっていけないし、社会にでることを前提にしたキャリア教育をきちんとやってほしいなって思います」。
同じような思いを持たれる読者の方は、人事担当者ではなくても少なくないのではないだろうか。こうした声はキャリア教育に対する不満ではあるのだが、それだけ「キャリア教育」に対する関心が高まっているとも言えるだろう。
時代によって目的が異なる「キャリア教育」
「キャリア教育」という用語が文部省(当時)関連の政策文書に初めて用いられたのは、1999年である。それから約20年がたった。どれほどの人がご存知かは知らないが、文部科学省は国民へのキャリア教育に対する理解の促進と普及に取り組んできた。例えば平成27年には、木村拓哉氏主演の映画「HERO」とタイアップし、キャストに対してインタビューを行い(ちなみにこのインタビューに、主役である木村拓哉氏は登場しない)、下村博文文部科学大臣(当時)は鈴木雅之監督と対談までしている。こうした取り組みがどれほど功を奏したのかは全くわからないが「キャリア教育」という言葉は市民権を得たと言っていいだろう。
しかし、「キャリア教育」を実際に受けたことがあるという方は当然限られる。そして「キャリア教育」は社会の変化や時代の要請のなかで、その中身がどんどん変化してきた教育でもある。文部科学省の文書におけるキャリア教育それ自体の定義の変遷にそのことが表れている。