インド洋の島嶼国モルディブでは、親中派のヤミーン大統領がインド寄りのナシード元大統領ら反体制派を弾圧、非常事態宣言が発せられる事態となっている。2月初め、モルディブ最高裁は、同国史上初めて民主的な選挙で選出されたナシード元大統領らに対する汚職、テロなどでの有罪判決を無効とした。これに対し、ヤミーンは判決を拒否し、2月5日に非常事態宣言を発令した。非常事態宣言について説明する特使を、中国、パキスタン、サウジ等に派遣したが、インドには派遣していない。一方、亡命中のナシードは、インドに軍事介入を要請している。
モルディブは、中国が推進する一帯一路構想の要衝でもあり、インドを包囲するいわゆる「真珠の首飾り」の重要な要素でもある。一帯一路構想には、中国・パキスタン経済回廊も含まれている。中国とパキスタンとの関係強化は、インドに対する強い牽制である。こうした構想の一環に当たる中国によるモルディブの取り込みに、インドが極めて強い警戒感を抱くのは当然のことである。
モルディブは歴史的に、インドの勢力圏にあった国だが、中国は、ナシード前政権の転覆後に発足したヤミーン政権に接近を強めた。2014年に習近平はモルディブを訪問し、一帯一路構想への支持を取り付けた。中国はモルディブの港湾をはじめとするインフラ整備に投資し、昨年12月には両国はFTAを締結している。スリランカでは、中国の借款により建設されたハンバントタ港が、債務不履行回避のため中国側に99年間リースされるという事態になった。モルディブでも同様のことが起こり得る。ナシードによれば、中国による3つのプロジェクトに対する借款が、モルディブの国家債務の80%近くに達するという。
インドとしては、モルディブへの影響力を回復したいところであるが、なかなか難しい。ニューデリーにあるシンクタンクCenter for Policy ResearchのBrahma Chellaney教授は、Project Syndicateのサイトに2月19日付で掲載された‘India’s Choice in the Maldives’と題する論説で、モルディブ危機に対してインドとして取り得る対応について、要旨、次のように論じている。
合法な当局によるインド軍の派遣要請ではないため、インドの介入は危険である。インドの落下傘部隊は、首都マレを数時間で制圧できるかもしれないが、イスラム主義者の影響力が増大し、一握りの一族がモルディブの政治経済を支配するように政治状況が変化した中で、民主的自由を守る同盟者を見出すことは極めて困難であろう。
仮にヤミーンを追放し民主的な選挙が行われたとしても、中国の影響力は封じ込められそうにない。バングラデシュ、ミャンマー、ネパール、スリランカの例が示す通り、中国は、民主的に選出された政府との対応においてもインドを出し抜いてきた。誰がモルディブの指導者になろうとも、同国の対中債務は増大し続け、中国はそれを絶好の梃子として保持し続けるであろう。