安保チームのバランスが崩壊
米メディなどによると、ティラーソン国務長官の解任は政権の国家安全保障チームの微妙なバランスを大きく崩すものでもある。トランプ大統領はティラーソン氏に対し、昨年夏ごろから不満を募らせるようになっていった。長官が国防総省での会議で、大統領を“間抜け”と呼んだことも耳に入っていた。
とりわけ、ティラーソン氏が「パリ協定」からの脱退や、イラン核合意の破棄、エルサレムをイスラエルの首都に認定、といった考え方に反対していたことが大統領の怒りを買った。
こうした中でティラーソン氏の唯一の頼りは4つ星の大将であるマティス国防長官だった。13日の国務省でのお別れ会見では、自分をクビにしたトランプ大統領への謝辞は一切なく、事実上、抗議の意思を露わにしたのに対し、マティス国防長官には、外交で手助けしてくれたと称賛した。
歴代政権では、国務長官と国防長官は概してライバル関係にあるものだが、2人は朝食をよく共にするなど親しい間柄にあった。特にホワイトハウスで開催される国家安全保障会議では2人がタッグを組み、大統領の“暴走”に歯止めを掛ける役割を果たしていた、という。
この2人の意見にたびたび賛同したのがマクマスター補佐官(国家安全保障担当)で、トランプ氏は自分の方針を通すためには、これら3人の意見を考慮しなければならず、同氏のストレスがたまっていた。しかし、ポンペオ氏が国務長官に就任すれば、この安保チームの微妙なバランスは崩壊する。
トランプ氏はティラーソン氏を「弱腰」と侮蔑的に批判していたが、マクマスター補佐官に対しても同じような感情を抱いているとされ、近くネオコンとして知られる超タカ派のジョン・ボルトン元国連大使に交代させるといううわさが出回っている。また大統領が強い不満を抱いているシュルキン退役軍人長官やセッションズ司法長官の更迭も近いとの観測も高まってきた。
いずれにせよ、トランプ政権は保守強硬派の色彩がこれで一段と強まった。外交では、ポンペオ新国務長官、ヘイリー国連大使が強硬路線をけん引、貿易分野でも鉄鋼やアルミニウムへの高関税方針の決定により、自由貿易主義者のコーン国家経済会議議長が政権を去り、貿易戦争も辞さないというナバロ通商製造政策局長ら保護貿易主義者が主導権を掌握した。
安倍晋三首相とトランプ大統領の個人的なつながりの強化で安心感が漂っていた日米関係も平穏なままでは済みそうにない。北朝鮮政策などでトランプ政権から不意打ちを食らわされる懸念も十分にある。ポンペオ氏の国務長官指名はそうした不透明な先行きを暗示している。
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