2024年11月23日(土)

中国メディアの裏側(全3回)

2011年2月27日

 記者の給料はだいたい基本給プラス原稿字数に応じた歩合制なので、書かねば給料はあがらず、書いても掲載されなくては給料がもらえない。しかも、無難な識者インタビューや会見原稿の単価は安く、危険な現場突撃取材、へたをすると体制批判に向かいかねない調査取材は単価が高い。彼らはジャーナリズム意識も多少あろうが、生活の切実な問題として、報道統制を超えるか超えないかくらいのエッジボールを狙ってゆく。

 私が日ごろ付き合うのは、どちらかというと、そういう突撃型、挑発型の記者が多い。彼らは自らを「新聞民工」と自嘲気味によぶ。民工とは農村からの出稼ぎ者の、どちらかというと蔑称なのだが、そう言いたくなるほど、危険・きつい・保障のないわりには低賃金労働だ、という意味だ。もちろんエース記者になれば、月給1万元は軽く超すのだが、自分の書いた記事が政治問題になったときには、記者一人に責任を負わされることもあるし、更迭や解雇はもちろん、ひどい場合には二度と新聞業界で働くことを禁じられる場合もある。

 そこまで危険を冒さなくても、たとえば取材し、苦労してまとめ上げた原稿が掲載直前になって「政治的理由」でボツになることもしばしばだ。広東省の雑誌記者の友人は、昨年初夏に広東省で広がった日系企業のストライキ原稿の深いルポを書いたが、掲載される直前に宣伝部からストライキ関連の独自原稿の掲載を一切禁じる通達があり、編集長からボツを言い渡された。原稿が載らないと給料はもちろん、それまでに使った取材費も自腹なのだから切ないことこの上ない。

 彼は「宣伝部と常に“短距離競走”している。ある事件が発生して宣伝部が反応するまでのタイムラグに、ダッシュで取材し急いで掲載しなきゃならない」というのが口癖だった。今年の報道統制は従来に輪をかけて厳しいが、それでも、新聞を売るためには、統制ぎりぎりを狙っていかねばならない。記者はつらいよ、と笑うが、それでも「書けない中央紙官僚記者にはなりたくない」とも言うのだった。 

(第2回「危険な職業」はこちら)

福島香織(ふくしま・かおり)
ジャーナリスト。大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、 2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。著書に『潜入ルポ 中国の女―エイズ売春婦から大富豪まで』(文藝春秋)、『危ない中国 点撃!』(産経新聞出版刊)。近刊に『中国のマスゴミ―ジャーナリズムの挫折と目覚め』(扶桑社新書)。日経ビジネスオンラインで「中国新聞趣聞~チャイナ・ゴシップス~」連載中。

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