2024年4月26日(金)

Washington Files

2018年6月5日

6月12日というと、あと10分後の話

 その一方、5月末になって「6月12日開催は時間的に無理」とするニューヨーク・タイムズ報道をめぐりホワイトハウス内での“珍事”が大きな話題となった。

 これは同紙が「ホワイトハウス高官」の背景説明を下に、実際に首脳会談が開かれることになっても議題の設定、進め方などの詳細を双方で確認し合うためには時期をずらさざるを得ないことを報じたもので、同高官は「6月12日というと、あと10分後の話だ」とも語ったという。しかも、この背景説明には他の有力紙数紙のホワイトハウス担当記者も同席しており、同一内容を録音テープで確認している。

 ところが、なんとしても「6月12日」にこだわる大統領は、ただちにこの報道にかみつき、自らのツイートで「またフェイク・ニュースのニューヨーク・タイムズが誤報をやった」と怒りをあらわにしたため、「背景説明」の事情を知っていたホワイトハウスのプレス担当が釈明に翻弄される始末だった。

 では、トランプ大統領が開催を急ぐ理由は何か。

 まず、米政府および連邦議会の「政治日程」がある。

 とくに下院における来年度予算審議は遅々として進んでいないばかりか、「農業法案」、「連邦航空局(FAA)再編法案」、「全米水害保険法案」、「個人所得税減税法案」などの個別案件、さらには大統領が特に重視するインフラ大型投資計画などの重要法案が目白押しとなっている。ところが、7月末から8月いっぱいにかけては議会は夏季休暇に入り、休暇明けの9月にはいると議員たちが再びいっせいに自分の選挙区に戻ったりするため、実質審議めぐる与野党の攻防は、6月半ばから7月下旬がヤマ場となる。

 しかも、11月中間選挙の結果いかんによっては、これらの重要案件の成立のめどがまったく立たなくなり、ひいてはトランプ氏にとって2020年再選の見通しも一層厳しくなる。つまりいったん「6月12日」を中止または延期した場合、自らのノーベル平和賞受賞も念頭に置いた首脳会談も事実上、不可能となるという、いわば“背水の陣”だった。

 第2に、大詰めを迎えつつあるロシア疑惑捜査だ。

 ロバート・モラー特別検察官による事件究明は、これまでにトランプ氏の側近だったポール・マナフォート元トランプ選対本部長、マイケル・コーエン顧問弁護士ら有力者が強制家宅捜索を受け膨大な証拠物品を押収されているほか、マイケル・フリン元大統領補佐官(国家安全保障担当)、ジョージ・パパドポロス元選対本部顧問らが偽証容疑について自ら罪を認め捜査に協力姿勢を見せるなど、真相究明の外堀はかなり埋められつつある。

 トランプ氏本人に対しても、司法妨害、共謀、偽証などの容疑で有力な証拠固めの段階に入っているといわれる。

 ただ、実際に大統領を起訴するかどうかについては、憲法上、大統領の法的立場はある程度保証されているため、モラー特別検察官自身も消極的な立場をとっている。

 問題は、起訴、不起訴にかかわらず同特別検察官が、捜査結果報告書を事件の統括責任者であるロッド・ロゼンシュタイン司法副長官宛てにいつ提出するかだ。
 この点に関連して注目されるのは、トランプ氏の同事件弁護士を務めるルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長が「9月1日までに報告が行われる」との踏み込んだ見通しを表明していることだ。同氏は最近になって、特別検察官チームとも頻繁に接触しているといわれるだけに、かなり信ぴょう性の高い発言として米マスコミも重視している。

 さらに「モラー捜査結果報告書」の中で、大統領に対する「不起訴」の判断が盛り込まれたとしても、議会に対する「弾劾審議勧告」を同時併記するとの見方が有力なだけに、かりに8月中に提出された場合、大統領としても重大な局面を迎えることになる。米朝首脳会談どころではない危うい立場に立たされかねない。


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