5月30日に、マティス米国防長官は、ハワイで米太平洋軍司令官の交代式に出席して、「米太平洋軍」を「米インド太平洋軍」に改名することを発表した。その翌日、日米印の海軍はグアム沖で共同軍事演習を行った。そして、6月2日、マティス国防長官は、シンガポールで開催されたシャングリラ会議で、「米国のリーダーシップとインド太平洋の安全保障への挑戦」と題して講演した。その模様と全文はIISSのホーム・ページで見ることが出来る。
一方、この期間、米軍はシンガポールに程近いベトナムで、地味だが重要なミッション「太平洋パートナーシップ2018」を行っていた。6月2日に、主に日米越による2週間にわたる訓練等を終え、米海軍の病院船USNS Mercyがベトナムの港から帰路につくところだった。
そもそも「太平洋パートナーシップ」とは何なのか。今年で13回目となる、すなわち2006年から米軍がイニシアティヴを取って始めた、人道支援・災害救助(HADR: Humanitarian Assistance and Disaster Relief)を目的とした多国間の訓練・研修である。きっかけになったのは、2004年12月に起こったスマトラ沖の大地震と巨大津波だと言う。太平洋の米軍の同盟諸国やパートナー諸国が協力して、いざという時に備えるという。HADRが目的なので、軍人の他、民間人も参加をし、米国側だけでも800人以上が協力する大規模な合同訓練である。
今回の「太平洋パートナーシップ2018」では、米海軍の病院船USNS Mercyと運搬船USNS Brunswickが参加をして、ベトナムに寄港し、ベトナムの医療従事者等に研修を行った。日本の海上自衛隊も積極的に参加した。
このUSNS Mercyは、2月23日に米国西海岸のサンディエゴの海軍基地を出発してから、ベトナムに到着するまでに、幾つかのパートナー諸国にも寄港している。昨年に引き続き、今年もインド洋まで足を伸ばし、スリランカを訪問し、
ASEANの大国であるインドネシア、更にはマレーシアには4月16日に寄っている。ベトナムからの帰途には、日本にも立ち寄る。
寄港地以外にも、「太平洋パートナーシップ2018」の特徴としては、参加者の国籍の多様性があげられる。ミッションの司令官は米国人だが、副司令官が英国人で、参謀長が豪州人である。参加者も、ホスト国以外に、豪州、カナダ、フランス、日本、ペルー、シンガポール、韓国及び英国出身者が含まれる。アジアというよりは、より広いアジア太平洋諸国となるのだろう。
「太平洋パートナーシップ」は、各国のHADR能力を向上させるのみならず、パートナー諸国間の相互運用性や信頼を高め、友情を深める効果もある。その意味では、一石二鳥どころか、様々な良い副作用がもたらされるものである。
昨年から、「太平洋パートナーシップ」に参加する米国の艦船がインド洋のスリランカに寄港するようになった。また、今年、日米越の合同訓練と同時期に、日米印では合同演習を行った。シンガポールのシャングリラ会議に、マティス長官とともに参加したインドンのモディ首相は、シンガポールに来る前に、インドネシアとマレーシアを訪問した。この2国は、偶然にも、「太平洋パートナーシップ2018」に参加したUSNS Mercyが、ベトナムに来る前に寄港した2国である。こうして考えると、来年以降、いずれインドも参加して「太平洋パートナーシップ」が「インド太平洋パートナーシップ」と改名される日が来るかもしれない。
ベトナムからインドネシア、マレーシアとマラッカ海峡を通って、インド洋のスリランカまで、インド太平洋地域の海洋に、米軍のプレゼンスがあるというのは、たとえ病院船や運搬船であろうと、頼もしい。民主主義や法の支配、国際秩序を遵守するという共通の価値観を共有する諸国が協力して行動することによって、インド太平洋地域は、自由で開かれた地域であり続けられるのだろう。
参考 :‘U.S. Partner Nations Conclude Pacific Partnership 2018 in Vietnam (Department of Defense, June 5, 2018) , ‘USNS Mercy Deploys in Support of Pacific Partnership 2018’ (Department of Defense, February 26, 2018))
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