2023年2月6日(月)

解体 ロシア外交

2011年5月27日

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新STARTとは?

 それでは、新STARTはどのような意味を持つのだろうか(合意内容は*注4)。新STARTは、2009年12月にSTART1が失効した後も、同条約が効力を有するという前提で協議を継続し、2010年4月8日に米ロ両大統領がチェコのプラハで調印したのを受け、米上院が2010年12月(米国の軍事力低下を危惧して共和党が難色を示したため、批准は困難とされてきたが、オバマ大統領が諸々の共和党切り崩し策を講じた)、ロシア上院が2011年1月に批准を承認し(ロシアでも核大国のステイタス維持、欧州MD対策や軍改革の障害とならないか、など様々な議論があったが、大きな反対論は少なく、米国の動向を見据えて批准承認に至ったと考えられる)、2011年2月5日にクリントン米国務長官とラブロフ露外相がドイツのミュンヘンで行われた安全保障会議の場で批准書を交換して発効した。

 米ロという世界の核大国が核兵器を削減することで協調したことは歴史的に意義があり、イランや北朝鮮などへの好影響を含め、新STARTは世界規模での軍縮に弾みをつけたと高い評価を受けている。

 だが、実は素直に軍縮と喜べない事実があることも否定できない。まず、戦略爆撃機には様々な種類があり、搭載される核弾頭も多様であるが、条約では、実際に積んである弾頭数は不問にしたまま、一律に「1機あたり弾頭1発」と計算されている。しかも、実戦配備されていない核弾頭については、廃棄する義務を負わないことになったため、実戦配備から外された核弾頭を備蓄することには制限がなく、全体の核弾頭の数を減らすことは極めて困難とも考えられる。アメリカの「憂慮する科学者同盟」(Union of Concerned Scientists)は、両国の現状はすでに新条約で決定された削減後の数字と余り差がなく、米国が核兵器の運搬手段を若干減らし(ロシアは増やすことも可能)、両国が核弾頭を備蓄に回すだけで条約が履行されてしまうことになると危惧を訴えている。

 それでも、世界の核兵器の90%を保有すると推計されている米ロ両国が、「政府レベル」で近年の関係悪化を乗り越えて核兵器の管理で合意に至ることができたことには重要な意義があると言えよう。

 そして、新STARTは、上述のように、まさに米ロ「リセット」の象徴的な果実であった。何故なら両国関係はブッシュ米政権時代に最悪レベルにまで悪化し、そして、まさにその時期にSTART1が失効し、その新たな契約については全く見通しが立っていなかったからである。

背景は?

 それでは何故、ロシアはここにきて「新START」の破棄をちらつかせているのだろうか。

 第一の理由としては、米国とNATOに対する不信感が高まっていることがある。

 今年の5月20日にも、ロシア軍参謀本部の複数の高官が、北朝鮮やイランは欧米に達する大陸間弾道ミサイル(ICBM)を製造できる段階になく、米国が両国からのミサイルの脅威を理由にMD計画を強化していることは全く説得力がないと主張している。また、ロシアの軍事関係者も常々、欧州MDがロシアに向けられたものではないという米国サイドの主張には根拠がないと述べてきた。

*注4:新STARTの主な合意内容は、各々の戦略核弾頭の配備上限を1550発に、ICBM、SLBM発射装置、核搭載可能な重爆撃機という運搬手段は未配備のものを含め800(配備総数は700)機・基に制限することで、双方が7年以内に削減目標の実現を目指していく。査察・検証システムやデータ交換についても規定し、START1の失効以来行われなくなっていた相互査察が再開される。効力は10年間で、両国の同意のもと、最大5年の延長が可能となっている。なお、両国は条約の内容にかかわる特別な事態が国家の高度な利益の脅威になったと判断した場合、条約から脱退する権利を有するとされている。

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