2023年1月31日(火)

World Energy Watch

2018年8月16日

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山本隆三 (やまもと・りゅうぞう)

常葉大学名誉教授

NPO法人国際環境経済研究所所長。住友商事地球環境部長などを経て現職。経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。著書に『電力不足が招く成長の限界』(エネルギーフォーラム社)など多数。

テスラを非公開企業に

 イーロン・マスクはツイート好きだが、会社の経営に係る重要事項を個人のツイートで発表するのは普通ではない。8月7日マスクは「テスラを私的に保有される企業(非公開企業)にすることを考えている。株式の買い取り額は420ドル。資金は確保済み」とツイートした。このツイートを受け、図-3の通り、当日午後株価は大きく上昇した。ツイートの1時間後には、テスラの全従業員約3万7000名にマスクの手紙が配信された。かなり長文だが、その主旨は次の通りだ。

 「最終結論はまだだが、私的企業にすることを検討中だ。その理由はテスラが最善の操業を行う環境を作るためだ。公開会社は四半期の利益を重視し意思決定を行う必要があるが、必ずしも長期的に正しい決定とは限らない。さらに、歴史的に最も空売りされる株になっており、公開されていると会社を攻撃するインセンティブを持つ多くの人を作り出す。テスラのように長期的な使命を持つ会社は、スペースX(注:マスクがCEO)のように私的企業となるほうが効率的に運営できる。安定的な成長になれば、再度公開会社に戻ることもあり得る。

 私的企業になることは、従業員を含め、全株主が株式を売却することを意味していない。第一に、株主は選択権がある。420ドルで株を売却してもよいし、私的企業テスラの株主に留まってもよい。第二に、私的企業になっても、従業員は定期的に株式を売却可能。第三に、スペースXとテスラを合併させる意図はない。株主は約6カ月ごとに株式を売買する機会を持つ。最後に、私は約20%の株式を保有しているが、これが大きく変わることはない。この提案は、株主の投票により最終決定されることになる」。

 マスクのツイートの中にある「資金は確保済み」が本当かどうか。さらに、ツイートで株価まで発表されたことが適切か、SECが調査を開始していると報道されている。また、「資金確保」と発表し株価を上昇させたのは「意図的な株価操作」との訴訟も2件起こされた。

 通常私的企業になれば、株式が売買されることはない。SECは私的企業の株主数を一般的には2000名以下としている。全従業員が株式を保有すると明らかに私的企業の条件を逸脱する。さらに、マスク提案のように株式が売買可能な状態の私的企業の形態は不詳だ。マスクは、私的企業に移行した後も、今の株主の3分の2は株式を持ち続けると予想している。そうであれば、上場したままサウジアラビアのファンドが株式を購入する方法もあるはずだ。

 私的企業にするマスクの目的は、空売りを行う株主、投資家を排除しマスクを信奉する株主だけ残し、さらに証券アナリストの質問を封じるためとも思える。今年5月のアナリストとの質疑応答の際には、「資金不足に陥る可能性があるのでは」との質問に対しマスクは「間抜けな質問」と、かなりイラついて返事をしている。アナリストの中にはテスラの資金繰りが行き詰まると予想する向きも多かった。資金繰りを懸念するアナリストとは、マスクは付き合いたくないということだろう。

資金源はサウジアラビア

 8月13日テスラのブログに投稿されたマスクの発表文によると、資金についてはサウジアラビアの公的ファンドによる提供が予定されているとのことだ。マスクの発表は次の通りだ。

 「2017年の初めファンドから投資に関心があるとの表明があり、その後私的企業にすることにつき数度会談を行った。最近、ファンドが株式市場を通し約5%の株式を購入した後、面談の要請があった。面談ではファンドの運営者から資金面での支援を行う強い意向の表明があった。結果、ファンドとの契約には何の疑問もなく、次の過程に進めることになった。これにより資金は確保済みとツイートした。その後もファンドの運営者と連絡を取り、運営者からは買収監査、許可取得の内部検討を条件に支持の表明があり、同時に私的企業にする詳細に関する質問があった。詳細計画を決める前にファンド及び他の投資家と引き続き議論を続け、詳細提案を取締役会に行う」。

 マスクは「資金は確保されている」としていたが、この発表文では、買収監査、許可取得が条件になっており、資金が確保されているとは言い切れない状況であることが明らかになった。また、計画の詳細も決まっていない。マスクの発表分は、さらに続いている。「私的企業になるための資金は、通常のレバレッジド・バイアウト(注:詳細解説は次パラグラフ)ではなく、株式の形で提供される。テスラが負債を持つのは賢明とは言えないからだ。従って、私的企業になるため700億ドル以上必要ではなく、実際の必要資金はかなり少ない。420ドルの株価はテスラ株を売りたい株主だけに支払われるが、約3分の2の株主は留まるとみている。最終案が取締役会に提案され認可され、必要な許可取得がなされれば、株主の投票に掛けられる」。

 ファンドが提供する資金で株式買収が行われるが、必要資金は240億ドル前後になるとのマスク予想だ。この予想通りであればファンドが3分の1の株式を持つこととなり、マスクを抜きテスラの最大株主となる。結果、サウジアラビアにテスラの主導権を渡すことになるが、今後の資金調達を考えれば仕方がないということだろうか。


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