2024年7月16日(火)

赤坂英一の野球丸

2018年8月22日

 夏の甲子園は高校球児たちだけではなく、大人の監督たちの群像ドラマでもある。熱戦や好試合が続き、スタンドも連日盛況だった高校野球選手権第100回記念大会、球児たちのひたむきなプレーの裏側には、監督たちの様々な人生模様があった。

(gilltrejos/Gettyimages)

 浦和学院・森士(もり・おさむ)監督(54歳)は、仙台育英との初戦を前に、5年前の2013年、第95回大会の初戦の録画ビデオを選手たちに見せた。相手は同じ仙台育英で、同年春の選抜の優勝投手、エース左腕の力投も虚しく10-11のサヨナラ負けで初戦敗退。以後、5年間甲子園から遠ざかり、ようやく戻ってきたと思ったら、同じ初戦でまた因縁の仙台育英と対戦することになったのだ。

 今度こそは負けられない。いまの選手たちが入学する前の試合で、まったく違うチームではあるが、5年前にこんな悔しい負け方をしたことを知っておいてほしい。そう思ってビデオを見せた森監督の思いが選手たちにも伝わったのか、今大会は9-0で浦学が完勝を収めた。

 一方で、実は仙台育英の選手たちも5年前のビデオを見ていた。浦学はリベンジに燃えているだろう、だからこそ負けられない、と誓い合っていたのだ。この目に見えない両校のドラマが、一見ワンサイドだった内容以上の見応えをゲームに与えた。

 昨年第99回大会の優勝校、花咲徳栄・岩井隆監督(49歳)は2回戦で横浜に敗れ、連覇の目標を阻まれた。彼が勝利への執念を剥き出しにしたのは、4-8と4点ビハインドで迎えた九回裏だ。ベンチの前に出てきて三塁コーチに思い切って腕を回すよう大声で指示を出し、2点を返して6-8と2点差に追い上げ、なおも2死満塁と攻め立てると、打席に入った1年生・井上朋也に伝令を出した。

 指示の中身は、「フルスイングしろ。迷うな。思い切って振れ」。結果は、井上がフルカウントから外角低めへのボール球にバットを出し、空振り三振でゲームセット。

 もし井上が押し出し四球を選んでいたら、とは誰でも考えるだろう。しかし、試合後の岩井監督は「たらればを言い出したらきりがない」と、後悔する素振りを見せず。「最後までウチらしい攻めと粘りの野球を見せられました。負けたことは悔しいですが、やってきたことに後悔はありません」と言い切った姿に指導者としての矜恃を見た。


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