今季、巨人のエース・菅野智之の完投数がどこまで伸びるかに注目している。前半戦では15試合に登板し、9勝5敗で完投5(うち完封3)。勝ち星を挙げた試合の半分以上を1人で投げている勘定で、リリーフ投手陣が安定しない中、菅野自身も「先発するからには完投」を強く意識しているようだ。後半戦もこの調子でいけば、勝ち星が20に到達するかどうかは微妙ながら、完投数が菅野自身初の2桁、10に達する可能性は十分にある。
実はこれ、地味なようで、最近では非常に珍しい記録なのだ。菅野が10完投すればセ・リーグでは2005年に11完投した広島・黒田博樹、10完投の横浜(現DeNA)・三浦大輔以来13年ぶり。巨人では03年に11完投した上原浩治以来15年ぶりとなる。今季の巨人は前半戦までに山口俊も菅野と同じ5完投しており、1シーズンに2人の投手が10完投すると、1994年に11完投した斎藤雅樹(現巨人投手総合コーチ)、10完投の桑田真澄以来、実に24年ぶりの記録なのである。
完投の数がそれほど大した記録なのか、と最近の若いファンは思うかもしれない。先発、中継ぎ、抑え、さらに状況に応じたワンポイントなど、投手陣の分業化・細分化が進んだ現代の野球においてはもはや重要な意味などないのではないか。そういう数字でエースとしての力量が測られたのは、金田正一(通算完投数歴代最多365)、スタルヒン(同2位350)、鈴木啓示(同3位340)ら、前世紀のレジェンドたちの時代ではないのか、と。
しかし、パ・リーグに目を転じると、ほんの5年前まで、リーグを代表するエースたちは当然のように10試合以上完投していたのである。最近のシーズンから例から挙げると、2013年のオリックス・金子千尋が10完投(15勝8敗3完封)。11年には楽天(現ヤンキース)・田中将大が14完投(19勝5敗6完封、日本ハム(現カブス)・ダルビッシュ有が10完投(12勝8敗6完封)。ちなみに、ダルビッシュは日本ハム在籍時代、05~11年の7年間で4度の2桁完投、うち3度がリーグ最多という記録を持っている。
ダルビッシュと同時期には西武(現ロッテ)・涌井秀章、その少し前は西武(現中日)・松坂大輔も先発したら当たり前のように完投することが少なくなかった。しかも、ここに挙げた投手は全員現役で、今後も記録を更新する可能性がある(現役最多72完投の松坂には難しいかもしれないが)。
セ・リーグの完投数が年々減っていく一方で、パ・リーグは指名打者制度の強力打線を相手に最後まで投げきる強力なエースを輩出しているわけだ。2桁には届かなかったものの、楽天・則本昂大も17年に8、14年に9の完投を記録している。
05年にセ・パ交流戦が始まって以降、優勝(最高勝率)チームはパが14シーズン中11シーズンとほぼ独占。対戦成績もパの1040勝920敗56引き分けと、大きくセを上回っている。かくも大差がついたのは、シーズンを通して完投できるエース投手のパワーとスタミナの違いも大きな要因の一つではないか。
投手分業化が進んだ現代、絶対の守護神と認められたクローザーがピシャリと最終回を締め括る場面はファンにもすっかりお馴染みになった。が、最後まで投げきったエースがマウンドで満面の笑みを浮かべ、そこに駆け寄ったチームメートと握手を交わすシーンもまた、見ている者に格別の感動とカタルシスを与えてくれる。