今季から導入されたリクエスト制度、早くも様々な問題が噴出している。とくに、6月22日、2カ所の球場で起こった〝事件〟は、リプレー映像による検証について、ひとつの〝限界〟を示したと言ってもいいのではないだろうか。
まず、「起こってはならないはずのことが起こった」のがほっともっと神戸でのオリックス−ソフトバンク戦である。3−3の同点で迎えた延長十回2死一塁でソフトバンク・中村晃が右翼ポール際への飛球を放ち、審判にファウルと判定された直後、工藤公康監督が「ホームランではないか」とリクエストを行った。審判団がそのリプレー映像を検証し、ジャッジがファウルから本塁打に変更。この2ランが決勝点となってオリックスは敗れ、4位に転落した。
ところが、試合後になってこの判定がまた覆される。オリックスの福良淳一監督が最初の判定通りファウルではないかと訴え、審判団、長村裕之球団本部長らとともに審判室で再度リプレー映像を確認。その結果、審判側が「当初は打球がポール(の後ろ)に隠れたように見えたが、あとで見たらポールの前を通っていた」として誤審を認めたのだ。
しかし、〝幻の本塁打〟でソフトバンクが勝った結果までは覆らない。試合の翌日、NPBの仲野和男パ・リーグ統括、友寄正人審判長は改めて球場へ謝罪に訪れ、「リプレー映像を確認する際、映像をコマ送りするところを間違えていた」と釈明した。が、これに納得できないオリックスの長村球団本部長はNPBに対し、「ミスジャッジが行われた場面からの試合続行」を求めた。つまり、「中村晃がファウルを打った延長十回2死一塁からまた試合をやり直してほしい」というのだ。
オリックス側の要望をいったん持ち帰ったNPBは、3日後の26日に改めて「リクエスト制度ではリプレー検証で下された判定が最終ジャッジとなるとセ・パ両リーグのアグリーメントに定められている。ルール(野球規則7.04)上からも試合の続きを行うことはできない」と回答。併せて、再発防止策としてリプレー検証の正確を期すため、マニュアルを細分化して徹底化を図ることを決定した。
しかし、どれほど細かいマニュアルをつくっても、同じような誤審は今後も起こり得る、と私は考える。何故なら、映像は間違えないが、人間の目は間違えるからだ。確かに映像は撮られた事実をありのままに映し出す。が、その映像を見るのはあくまでも生身の人間。何人で確認しようと、何度繰り返し見ようと、見間違える危険性をゼロにはできない。
過去には、審判がリプレー検証を重ねたにもかかわらず、本塁打が三塁打になってしまったケースもある。2015年9月12日、甲子園での阪神−広島戦、2−2の同点で迎えた延長十二回、田中広輔が左中間スタンドへ本塁打を打ちながら、打球がグラウンドへ跳ね返ってきたため、審判が三塁打と判定した。このときは審判団が自主的にリプレー検証を行ったが、「審判3人で3回映像を確認した結果、本塁打とは認められなかった」として誤審を修正しなかった。映像は間違えなくても人間の目は間違える、とはこういうことである。