プロ野球監督の采配の中で最も難しいのが「継投」である。勝負どころにきて、投手を続投させるか、交代させるのか。監督の判断ひとつで展開がガラリと変わり、裏目に出れば勝てるはずの試合を落として、「ヘボ継投だ」とファンやマスコミにたたかれる。が、そんな結果論だけで論じられないのが、この「継投」の奥深いところだ。
広島が首位を独走、1強5弱となっているセ・リーグの前半戦から、私が興味を抱いたケースをいくつか挙げてみたい。まず、6月19日のヤクルト−ソフトバンク戦(神宮)。ヤクルトが4−3と1点をリードしていた八回、小川淳司監督が4番手に近藤一樹を送ったら上林誠知に2ラン本塁打を打たれて逆転負けした。結果論としては「継投ミス」だが、田畑一也投手コーチは試合後にこう言った。
「近藤で打たれたら仕方がない。今年はああいう場面を任せている投手なんだから」
真中満・前監督の元でヤクルトが優勝した2015年は、豊富なリリーフ投手陣がチームを支えた。ロマン、オンドルセク、バーネットの外国人トリオに加え、秋吉亮や久古健太郎らがゲームを作り、打線の爆発を呼び込んでいる。小川監督は復帰1年目の今季、近藤をそういう勝ち試合のリリーバーに指名した。これから後半戦を戦う上でも、与えた役割をしっかり果たしてもらわなければならない。抑えるに越したことはないが、痛い目を見て学ぶこともある。その意味で、「将来を見据えた継投ミス」だったとも言えるのだ。
次は、6月24日の巨人−ヤクルト戦(東京ドーム)。0−0で迎えた七回、巨人の先発・今村信貴が1死から満塁にされたところで、高橋由伸監督が澤村拓一にスイッチ。だが、澤村は2死から西浦直亨に左中間を破る二塁打を浴び、走者一掃で3点を奪われ、巨人が敗れた。
澤村は実績のあるセットアッパーであり、高橋監督も常々「ああいう場面を任せられるのは彼しかいない」と公言している。だから「仕方のない継投ミス」とも言えるが、私は今村に続投させてもよかったように思った。いくら一軍経験に乏しい若手とはいえ、この時点で球数はまだ80球。こういう苦しい場面で踏ん張らせてこそ、先発として一皮むけ、真の逞しさが身につくのではないだろうか。
今村は昨季二軍のイースタン・リーグで最多の9勝を挙げたが、1軍登板は僅か3試合で未勝利。今年のキャンプでも故障に泣き、今季673日ぶりに勝ち星を挙げたばかりで、この登板が3試合目だった。野上亮磨、吉川光夫、畠世周、田口麗斗ら、期待された先発陣が軒並み二軍落ちしている中、先発の柱として一本立ちしてほしい投手のはずだ。
しかし、高橋監督は今年が契約最終年の3年目。何としても優勝したい中、今村続投と澤村投入のどちらが勝てる確率が高いか、と考えて澤村を選んだのだとしたら、一概に間違いだったとも言い切れない。これは「根拠のある継投ミス」だった。
最も興味深かったのは、6月26日、DeNA−阪神戦(横浜)でDeNA・ラミレス監督が見せた継投である。0−0だった七回、先発バリオスが先頭の植田海にセンター前ヒットを打たれた。すると、これがまだ2安打目、球数も85球だったにもかかわらず、ラミレス監督はすぐさま中継ぎのエスコバーへ交代。これが裏目で、1死から陽川尚将に痛恨の3ラン本塁打を浴びて負けている。この「継投ミス」は言い訳できないだろうと思ったら、ラミレス監督は試合後にこうコメントした。
「植田は足が速いから、高い確率で盗塁してくる。エスコバーはウチのチームで一番クイック・モーションが速い。だから、あの場面はエスコバーを選択した」
このセリフの裏側には、過去に同じような状況でエスコバーを投入し、成功したケースがあったのだろうと察せられる。理屈としても正しいのかもしれない。が、盗塁を恐れて本塁打を浴びては本末転倒だろう。