チェアスキーが人生を大きく変える
だが、苦しかった生活も高校進学後に一変。理解し合える仲間や先生と出会ったのである。
「素晴らしい人たちに巡り合うことによって、それまで自分が傷つかないよう、身構えるように持っていた、亀の甲羅のようなものが少しずつ剥がれていったような感じでした」
さらに、人生を大きく変えた出来事があった。
横浜市のリハビリテーションセンターで見たチェアスキーである。
「座って滑るという発想があったのかって驚きました。好奇心がむくむくと沸き上がって初心者講習会に申し込んだのですが、その年はすでに終わっていて翌年、高校2年生のときに参加しました」
その前年のこと、高校で行われたスキー教室が開催され、大日方も参加してみたいと先生に相談したところ、「日中のスキー講習に一緒に参加できないのでは、楽しめないのではないか」となって参加を諦め、仲の良い同級生たちを見送ったという経緯があった。
さらに、それよりもずっと以前、小学生の頃に片足でスキーをしている障害者を紹介したテレビ番組があって、「私も滑ってみたい」と主治医に相談したところ、「残っている足にも後遺症があるため難しい。もしも自分の娘ならやらせない」と止められた経験があり、そのときはいろいろ挑戦してみたいスポーツの一つでしかないと割り切って諦めていたのだ。
しかし、座って滑るというチェアスキーの発想に、自分の視界がぱっと開けたような思いがした。
夜行バスで向かったチェアスキーの講習会。そこには職業も年齢もスキーのレベルも幅広く、様々な人たちが参加していた。
大日方は車窓から見た初めてのスキー場の景色が忘れられないという。
「夜中の到着だったのですがスキー場はゲレンデの整備のために照明がついていたのです。銀色に輝いていて、あそこが目的地だよって周りの人に教えてもらって、わくわくしました」
さらに翌朝、朝食会場から見えるゲレンデの景色にくぎ付けになった。
「真っ青な空と真っ白な雪。スキー場ってこんなに綺麗な世界なのかと驚きました」
もちろんはじめから滑れたわけではない。何度も転び、雪にまみれている時間の方が長かった。でも、それが楽しくて笑いが止まらなかった。
「少しでも滑れるようになると、よけいに楽しいんですよね。小さい頃から、できなかったことが、できるようになることが嬉しくて、楽しいと思っていましたから、スキーはそれがわかりやすかったんです。楽しいな、楽しいな、とひたすら感じていました」
大日方にとって良かったことは、年齢も生き方も様々な人に出会い、それまでの狭かったコミュニティーとは異なる広く多様な世界を感じられたことだ。
「チェアスキーの講習会参加を薦めて下さった先生からは、スキー講習会に参加して以来、変わったよねと言われます」
「私は楽しいことにのめり込んでいく感覚だけだったのですが、周りの人たちから見ていると成長したなって思われていたようです」