2024年4月24日(水)

使えない上司・使えない部下

2018年10月25日

Q 『流血の魔術 最強の演技』では、長州力選手や藤原喜明選手はあるときからそれぞれ自分の持ち味を生かした試合をするようになり、活躍したようなことが書かれてあります。それ以前は、くすぶっていたり、迷っている時期があったようにも私は受け止めました。

高橋:自分の持ち味をうまく出すことで活躍する選手はいます。あの2人がたとえば、当時の(初代)タイガーマスクのようなことをしようとも、難しかったでしょうね。あれは、佐山にしかできないことです。2人は自分の持ち味を生かしたから、あそこまでの人気が出たのだろうと思います。

彼らの持ち味は、強さです。少なくとも、ファンはそのように感じていました。だから、それを生かすような試合をしたことで、成功したのだろうと私は思います。藤原選手は、関節技にこだわっていました。自分の持ち味をよくわかっていたのでしょうね。日本人のプロレスラーは皆、強いですが、その中であえて順位をつければ、あの2人は上のほうのランクだと思います。

長州(選手)はまだ若かった頃、ショー的な要素の強いプロレスを辞めようと考えていた時期があったようですね。しかし、新日本(プロレス)からすると、そんなにすぐに辞められるのは、あまりにも惜しい選手でした。だから、藤波さんと敵対関係に持っていくマッチメイクをつくったわけです。有名な「かませ犬発言」は、古舘さんがつくった言葉だと思います。当時の藤波さんの人気もすごかった。自分の持ち味をよく出した試合をしていました。藤波さんは、相手の選手がどのようなタイプであっても、上手く試合をつくります。ですから、外国人選手の誰からも好かれていました。

プロレスの世界ではものすごく強くとも、「俺が、俺が、俺が…」と自分の主張ばかりしていたら、まず認められません。出る杭は、打たれるものです。自分の役割を心得て、持ち味をきちんと出すことこそが大切なのではないかと思います。ほかの選手のコピーではなく、自分自身のキャラクターを見つめ直し、研究し、自分の持ち味を開発すること。そのうえで集客力のある選手になれば、認められ、稼ぐことができるようにはなります。

ただし、スターとしてトップに立つことができるのはほんのごく少数です。プロレスはエンターテイメントですから、ルックスのよさや運動神経、頭のよさなどが要求されます。私は、身の丈以上に大きな夢を抱き続けるよりも自分の力や存在価値、役割などを理解し、こつこつと仕事をこなし、「名脇役」と呼ばれるようになるのも「大活躍」なのだと思っています。

Q 自分の役割や立場を心得ることなく、「俺が、俺が、俺が…」と自分の言い分を主張して活躍の機会を失った選手はいますか?会社員が知ると、反面教師になるような選手です。

高橋:真っ先に思いつくのは、ジャイアント・グスタブです。(新日本プロレスには)1987年に1回来ただけです。2メートル6センチで、230キロありました。この選手が、自分に都合のいいストーリーを勝手に考えるのです。私がマッチメイクをしていたとき、メインイベントで猪木さんと試合をすることを決めました。

試合前に、私が「今日、寝てくれな」と言ったら、グスタブは「何で?」と言うのです。「日本のスターは猪木さんだよ」と答えると、彼は「俺はこれから日本へずっと来る。初来日で負けたら、俺はどうなるんだ」と、今後も新日本で試合をすると勝手に話をつくるのです。当初からそのような契約にはなっていなかったし、その後、彼を日本に呼ぶことにもなっていませんでした。

結局、猪木さんとの試合はなくなりました。代わりに、ハンディキャップマッチにしました。グスタブ1人で、日本人選手が橋本真也と後藤達俊の2人です。2人が手加減することなく、バシンバシンとローキックを入れたら、動けなくなってしまい、試合放棄して控室へ戻ったのです。それから、(新日本プロレスには)来なくなりました。あのときに素直にマッチメイクにしたがって、猪木さんに負けておけば次の来日時に何らかのチャンスがあったのかもしれません。その後、彼の噂を聞いたことはありません。どうなったのでしょうかね…。

出会いは、大切にしたほうがといいと思います。人との出会いは、情報源の扉です。扉の奥には、自分を生かすヒントやチャンスがあるのかもしれません。「小人は縁に気づかず、中人は縁を生かせず。大人は袖すり合う縁も縁とする」と言いますね。かみしめたい言葉だと私は思っています。

ミスター高橋(高橋輝男)。1941年、横浜市生まれ。1972年、新日本プロレスに入団。25年にわたり、レフリーとして2万試合以上裁く。語学力を生かし、外国人選手の担当としても活躍。一時期は、審判部長やマッチメイカーなどを務める。1998年に引退し、新日本プロレスを退団。その後、警備会社の教育部に勤務後、高校などで「基礎体力講座」などの講師を務める。現在、高齢者の介護予防運動指導や執筆・講演活動などを行う。NPO日本チューブ体操連盟貯筋倶楽部理事長。著書に『流血の魔術 最強の演技』 (講談社)、『悪役レスラーのやさしい素顔』(双葉社)『知らなきゃよかった プロレス界の残念な伝説』(宝島)など多数。ウェブサイト「GoGetterz」の「ミスター高橋が教える、高齢にもやさしいノンロック筋トレ法」で、中高年向け筋トレ法を教える。

                                   完 

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る