2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年11月3日

親日の言論人の意見

 以下は、知日、親日の言論人が同じ環球時報に寄稿しているので紹介したい。こうした言論人の意見が環球時報に掲載されること自体現在の日中関係の雰囲気を表している。

2018年10月26日 環球時報 馬成三
「対中ODA援助は、中日両国が受益者」
馬成三(中国国際貿易学会理事、日本静岡文化芸術大学名誉教授)
1945年、中国遼寧省生まれ。1969年,北京大学卒業。1973年初め、中国対外貿易省(現商務省)国際貿易研究所に入る。1978年、駐日本国中国大使館勤務(商務担当書記官)で初来日。国際貿易研究所高級研究員、富士総合研究所主席研究員などを経て、2000年4月より静岡文化芸術大学教授。北京大学日本研究センター客員研究員兼任。
http://opinion.huanqiu.com/hqpl/2018-10/13362764.html

 筆者の馬氏なかなかの文筆家で、平和条約40周年の今年、論語を引用し不惑の年と形容している(うまい!)。是非不惑の日中関係になってほしいものであるが、両首脳の表情を見ていると、まだまだどうであろうか。

 馬氏は、日本のODAは金額の大きさばかりでなく、その内容が、技術、ノウハウに及び、そして日本の経済発展の経験を共有してくれたことが大いに中国の発展に役立ったと評価している。また民間でも日本興業銀行と野村証券などが多く中国の若手幹部を日本に招き研修し、その幹部たちがその後中国各地で活躍し、中国の発展に寄与したことも特筆している。

 また、ODAが先行したことで、それが呼び水になり、日本企業の直接投資が続き、それは日本企業にとっても輸出基地として、また中国市場をいち早く開発できたことで、日本側にとってもメリットになったと指摘している。

 私自身としては、自分が実際に銀行員として、またその後コンサルタントして、関わった分野で言えば、日本企業がサプライチェーンとして進出し、そこで多くの人材が育ち、生きた管理手法や技術が中国に広まったことが、現在の中国のサプライチェーンを支えている部分もある点を強調したい。もちろん、日本企業にとっても大きな利益をもたらしているので、馬氏の指摘はもっともである。

 最後に馬氏は、中華民族の美徳として、戦国策の一文で本稿を締め括っている。

 「人之徳於我也,不可忘也」(人の我に徳有るや、忘るべからざるなり)

 兼ねてから日本に関わっている馬氏のような中国の知日派の多くは、馬氏と同じ考えであると思う。とはいえ、また、政治の雲行きが変われば、このような声が吹き飛ばされてしまうのも、また現実と言え、そうはならないように日中関係が成熟し安定することを日中間でビジネスに関わるものとしては切に願う。

 ところで、今回の安倍訪中に関わり、日本のメディアを見ていると、米中貿易戦争で困った中国が日本に擦り寄ろうとしているが、また風向きが変わればきっと元の木阿弥になる、というような警戒する言い方が結構目につく。

 ただ、私は、中国だからきっと裏切るみたいは言い方には同調できない。相手がどう出るかはこちらがどう出たかにもよるので、相手が裏切るのを心配するよりも、相手に裏切られないために今どのように提携するかを考えるべきであろう。中国交回復からのこれまでの道のりを見ていると、日本側も後から見ると脇が甘かったと言われても仕方ない状況もあったかもしれない。

 一方、実際、中国は、これまでの戦略の修正もしくは調整を求められているのは、誰が見ても明らかだ。米中貿易戦争は、ある意味中国が米国市場と米国の技術に相当頼りながら、一方で米国の覇権に対する挑戦とみられる行動を起こしたことに、米国が危機感を爆発させてしまったのが、基本的な枠組みであるようだ。

 もともと米国はソ連を牽制するために中国と提携し、改革開放を後押ししてきたのだから、その中国が脅威になったのであれば、当然ゲームのルールを変えようとするであろう。

 朝鮮戦争を契機に日本の経済発展を後押しした米国が、日本経済の膨張を心配してプラザ合意を仕掛けたように。自由貿易云々という話は建前の話であろう。鄧小平は、韜光養晦(才能を隠して、内に力を蓄える)といってうまく米国の顔色を伺ってきたわけであるが、まだ中国の力が弱かったからそれができた部分もあったわけで、ここまでの経済力も軍事力も付いてくると、リバランスが必要になってくることは自然の成り行きだ。別に習近平だからというわけでなく、誰が中国のリーダーになってもこの状況は変わらない。

 従って、仮に今後米国との間で一定の妥協が成立したとしても、中国が米国への依存を減らさなければならないことは確かで、中国の専門家の意見を聞いてみても、その穴を埋めるために自らの努力できることは限られている。

  1. 国営資本の権益を民間に下放して民間の活力を利用して生産性を上げること。
  2. 日本をはじめとした米国以外の諸外国と提携も強化し、米国への依存から失う部分を補うこと。具体的には、外国から資本と技術の導入を促進しながら、貿易も促進する。
  3. その他、安保面で米国の警戒感を弱める外交的な努力をする。(中国が米国に追い詰められて、かつての日本の真珠湾攻撃のようなことすることは考えにくい。増して核保有国同士)

 中国は米国国債の大口保有国という意味では、米国が中国に頼っているとも言えるわけであるが、もし、中国がそれを大量放出するようなことがあれば、米ドルの暴落を招き、世界経済が混乱し、中国も膨大な損失を被ることになり通常選択肢にはなりえない。


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