2024年12月22日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2017年3月29日

 「汚職は中国経済の原動力である」(北京大学王建国教授)。

 『中国経済の基本構造とその本質が分かる20分のビデオ』。先月いつも中国経済について意見交換する中国のエコノミストからWeChatで20分の講演ビデオが送られてきた。(http://finance.sina.com.cn/hy/20130318/161314868851.shtml)。

(iStock)

 この講演は、中国経済の現状と課題を実に簡潔に説明しているから聴いてみてくれと。講師は、北京大学教授で経済学博士の王建国先生。オーストラリアの大学で経済学博士の学位を取った海外帰国組である。

 実は、この講演は、4年前の2013年の3月に北京で行われた、第一回ノーベル経済学者中国サミットでのものであるが、現在の中国の状況を分かりやすく分析、説明してくれているので皆さんに紹介いたしたい。

 中国経済の先行きについては、多くの読者が注視していると思われるが、基本的に以下に説明する枠組みを現状認識として押さえていれば、その後の分析、判断で大きく外すことはないのではないかと考える。

 2012年の習近平政権が発足してからしばらくの間、中国の内政問題では、腐敗撲滅運動のニュースばかりが目立った。

 最近でこそ、やや落ち着いてきた感があるが、我々企業サイドから見ると、その結果もたらされたものは、法律、規制の厳格運用が進んでいるということだ。これまで運用上柔軟に処理できていたものが、法律規定の字面通りの運用になる。これ自体はいいことなのであるが、反面、企業にとっては、これまで以上に規制と実態の乖離に悩むことが多くなったのも確かだ。

 これは私の印象であるが、これまで中国の行政レベルの規定の制定は、日本のそれと比べて、早いけど粗い(日本は反対に綿密だけど遅い)。すなわち、実務面に落とし込むと色々と矛盾が生じる規定が結構あったとみている。ただし、運用面で柔軟に対応してもらえたので、その分何とかなった部分があった。

 最近感じるのは、ある一面では、規定の制定はこれまでどおり、早いけど粗く、でも、運用は厳格ということで、制度、運用変更における時間的なミスマッチが起きてしまっている印象だ。とはいえ、運用の厳格化が定着すれば、自ずと規則の制定もより綿密になってくる部分もあると思うので、そうした方向での発展を期待している。

 しかしながら、今回、王建国教授の分析を聴くと、根はもっと深いところにあるようだ。なんと、現在の中国の経済体制においては、汚職こそが経済発展の原動力になっているとのこと。

 そういえば、もともと、行政が柔軟に対応してくれる動機は何であったのか?

 例えば、元々日本企業をはじめとする外国企業が進出する経済開発区やハイテクパークは、一つの行政単位であるのだが、ここの各政府部門は、外国企業の誘致と進出後のGDP、税収、雇用への貢献がその部門の業績として評価され、それが政府職員、幹部の出世の根拠の一つにもなっていたようだ。このため、企業として困ったことがあれば、別に賄賂を払わなくとも、親身になって相談に乗ってくれ、また、規制の運用についても、各部門と調整して柔軟に運用してくれることが多かった。

 それが、今は、企業の便宜のために善意で柔軟な対応をしようならば、汚職の可能性ありと見做されてしまうのが嫌なのか、上に述べたように柔軟な運用が見えにくくなった印象がある。

 一方、ビジネスに関わる様々は許認可権限を政府が握っているのは確かである。その程度は、日本のそれよりも強大であると言っていいであろう。

 例えば、国有土地の払い下げ、国有資産の払い下げ、様々な経営権の許認可、上場許可、膨大な補助金の付与、そして何よりも今後の政策についての情報などなど、金銭に換算したら膨大な金額になる権限を政府は有している。そうした権益のおこぼれに預かるのは外国企業としては実際にはなかなか難しいのであるが(日本企業でも中国が欲しがる相当なハイテク技術を差し出す場合は合法的にその権益を受けることは可能であるが)、多くの中国企業は、当然こうした権益を受けることができるポジションにあり、そこにどうアクセス、対応するかが大きな経営課題になっているのも事実である。

 それでは、なぜ、汚職が中国経済の原動力と言えるのか、王建国先生の分析を見てみたい。


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