まず、先生は、鄧小平の改革を以下の通り総括する。
- 政治体制を変えずに経済制度を計画経済から市場経済に変えた。
- 人権(引越しの自由、職業選択の自由、企業の自由)と財産権を拡充した。
- 上記の二つの権利の拡充により所有制の構造が変わった。
- 変わらなかったのは、中央集権。権力の合法性は上部構造からくるもので、権力間の相互バランスはない。
これが現在、中国モデルと言われる中央集権下の市場管理経済、即ち、「権控(権力にコントロールされた)経済」と言われるもの。
次に中国の経済モデルを以下の通り総括する。
ここでいう経済モデルとは。
- 価値の約束:国家または政府の国民に対する価値の約束。
- 制度のポジショニング:国家または政府の国民制度に対するポジショニング。
- 富の創造戦略がいかにその価値主張を満足させるか:すなわち、GDPの創造戦略。
- 富の分配戦略:GDPの分配問題。
そして、中国の経済モデルは。
- 価値の約束:西側の国と変わらない、むしろ世界で最も素晴らしいかもしれない。すなわち、人権平等、財産権の保護、人民に服務、執政為民など。
- 制度のポジショニング:まず、第二に、財産権の境界が不明確で保護もない。権力の合法性は、上部構造からくるもので下部構造からくるものではない。(1)特権があり、人権は完全に平等ではない。境界が不明確。(2)財産権の境界が不明確で、厳格な保護がない。(3)権力の合法性は上部構造からくるもので、下部構造ではない。(4)パワーバランスがない。チェックアンドバランスがない。
- GDPの創造戦略:(1)第一は、主に政府の投資が需要を牽引するということ。政府は、高税率で富を国家に集中させ、財政投資と財政政策で経済を牽引する。これができるのは、上記の2点の制度のベースがあってこそできるもの。どうやってそんな高額の税金を取れるのか、それはそうした制度のポジショニングがあるからで、不完全な人権で財産権も厳格な保護を受けず、政府は取りたいだけ取り放題、だからこそ経済を牽引できるのである。(2)第二は、輸出戦略、輸出牽引。過去の30年、特に最近の10数年は、中国の経済成長において巨大な作用を果たした。その輸出けん引も、前提があり、それは労働者の最低賃金である。それで不満があってもデモをすることもできないので、この最低賃金を受け入れざるをえない。これによりコスト上のアドバンテージをもって国際市場で成り立っている。(3)第三は、都市化。都市の急速な拡張は、財産権の侵害ができるからこそできるもので、それがなければ住宅地の徴用と強制移転もできない。
- 富の分配戦略:(1)GDPに占める賃金の比率は、普通の国は25%程度であるが、中国は8%で世界で最も低いレベル。(2)これは高税率によって、国民の富を国家が吸収し、それを国家資本に転換して需要をけん引するベースになっている。(3)GDPに占める行政予算の比率は31%、国家の投資の比率は24%であり、GDPの60%近くが国家によって使われている。(4)残りの40%が民間企業と一般大衆の取り分で、このため、この分配戦略において、消費による内需は脆弱であると言える。(5)さらに、非常に非合理的なのは、この国家資本は、民間に流れずに、パワーエリートたちの権貴資本(http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B8%A2%B5%AE%BB%F1%CB%DC%BC%E7%B5%C1)に流れてしまうことにある。