Washington Files

2018年12月3日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

「アメリカの大気はかつてないほどクリーンだ」

 しかし、トランプ大統領は3日後の26日、報道陣を前に「報告書を部分的に読んだが、私は内容を信じない」とこれを全面否定した上「アメリカの大気はかつてないほどクリーンだ」として、現状以上の大気汚染規制措置にも反対の態度を見せた。

 問題は、なぜトランプ氏が、このように先進諸国が一様に認める温暖化対策の必要性をかたくなに否認し続けるのかだ。そのひとつのカギを握っているのが、国内石炭、石油産業とのかねてからの癒着関係だといわれてきた。

 中でも際立つのが、石炭業界とのディープな関係だろう。

 ワシントンに本部を持つ政治献金調査機関「センター・フォー・レスポンシブ・ポリティクス」の調査データによると、2016年大統領選でトランプ候補に大口政治献金したトップ企業10社のうち、第1位と2位は、ロッキード・マーチン社、バンク・オブ・アメリカなどを抜いてマレー・エナジー社、アライアンス・コール社のいずれも石炭採掘会社だったことが明らかになった。

 このうちウェスト・バージニア、オハイオ、ペンシルバニアのいわゆる“炭鉱州”に鉱山を持つマレー・エナジー社のワンマン経営者ロバート・マレー氏は会社労組としての献金のほかに、個人的にも選挙期間中に22万6000ドル、トランプ氏当選直後にも「大統領就任式関連費用」として30万ドルという大金を寄付していたという。

 マレー氏がこれだけの踏み込んだトランプ支持を決断した裏には、当然のことながら、政治的賭けと打算があったことはいうまでもない。

 ニューヨーク・タイムズ紙が暴露したところによると、マレー氏は昨年3月、ホワイトハウスに招かれた際、トランプ大統領に3ページ半の「アクション・プラン」(行動計画)と題する秘密要求リストを提出、その中には、「温室効果ガス排出規制の撤廃」「石炭採掘安全基準の大幅緩和」「地球温暖化対策を念頭においた環境基準の撤廃」など、トランプ政権が実行に移すべき13項目が列挙されていた。(同紙2018年1月8日付)

 注目されるのは、トランプ・ホワイトハウスはその後、この「アクション・プラン」に沿った環境規制緩和策を忠実に実現させてきたことだ。 

 大統領はまず、秘密メモを示された直後の同年6月、他の大多数の先進諸国からの批判をよそに、地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」からの離脱を発表した。

 この発表に際しては、令嬢のイバンカ・トランプ氏らが反対したものの、最後は石炭、石油産業からの政治献金を受けてきた共和党上院議員22人の強硬意見に押し切られるかっこうになったという。

 トランプ政権は続いて同年10月には、オバマ政権時代に地球温暖化対策の看板政策ともいわれ、一酸化炭素排出量を2030年までに2005年レベルより32%削減を義務付けた「クリーン・パワー・プラン」の廃止を発表した。

 同政権がこれらを含め、2017年から2018年にかけて環境保護に逆行する規制撤廃または緩和のために打ち出した方策は、全部で80項目近くにも達している。

 しかし、このようなトランプ政権による際立った肩入れにもかかわらず、“20世紀のお荷物産業”化しつつある石炭業界の現状と将来は、実に暗澹たるものがある。

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