Washington Files

2018年12月10日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

トランプ大統領との関係性

 問題はなぜこのように、近年とくに1昨年ごろから白人過激派グループや個人による銃撃などの犯罪が急増してきたか、にある。果たして、大統領選挙期間中からイスラム教徒やヒスパニックといったマイノリティに対し差別的発言やツイッター発信を繰り返してきたトランプ大統領の登場と何らかの因果関係があるのかどうか―。

 最近、その可能性を示唆する興味深い研究論文が目にとまった。米プリンストン大学および英ワーウィック大学の二人の学者による『アメリカを再び憎悪の国にするのか―トランプの下のツイッターとヘイト・クライム(Making America Hate Again? Twitter and Hate Crime Under Trump)』と題する論評がそれだ(2018年3月28日付け)。

 それによると、二人は2016年大統領選の前後から活発化したトランプ氏の人種差別発言の中でもとくにイスラム教徒およびラテン・アメリカ人を誹謗したツイッター発信時期、回数及びその内容と、FBIが公表してきたこれまでの「ヘイト・クライム・データ」を基に相関関係を詳細に分析した。その結果、以下のような事実が浮かび上がった:

  1. イスラム教徒および中南米系アメリカ人を標的にしたヘイト・クライムは、トランプ氏が彼らを非難中傷するツイッター書き込みを始めた直後から目立ち始めた
  2. ヘイト・クライムの発生場所はプア・ホワイトが多い中西部の「ラスト・ベルト(さびついた工業地帯)」といった特定地域に限定されず、むしろツイッター利用人口の割合が高い諸州に広がっている
  3. このうちとくにイスラム教徒を狙った犯罪は、トランプ氏の選挙戦開始前まではほとんど皆無に近い状態だったが、選挙期間中の遊説やツイッタ―、当選後のイスラム諸国からの入国制限措置などが大きく報道されるに及んで急増した
  4. トランプ以前の歴代政権時代までは、ツイッター利用人口の多い地域でヘイト・クライムが指摘されるケースはきわめてまれだったが、トランプ政権の登場とともに、これらの地域の犯罪が明らかに増えた
  5. こうしたことから、全体としてソーシャル・メディアと政治の結びつきが鮮明となったトランプ政権の下で、ツイッターなどに刺激されたヘイト・クライムが顕在化した

 さらに問題なのは、このように過去数年の間に、テロやヘイト・クライムが激増しつつあるにもかかわらず、犯行の主役としてクローズアップされてきた白人過激派、白人至上主義組織に対する捜査当局の内偵や摘発が立ち遅れている点だ。

 民間調査機関スティムソン・センターの最近の調査報告によると、2002年から2017年にかけて米国内で発生したテロのうち、イスラム過激派の犯行による犠牲者は100人だったのに対し、白人至上主義グループによる犯行の犠牲者は387人にも達している。ところが、地元警察、FBIなどによるこれら白人過激活動家の取り締まりや犯行に至る以前の予防的情報収集はほとんど行われておらず、また、犯行があったとしても見逃されるケースも少なくないという。

 この点について、 ニューヨークタイムズ・マガジンの特集記事(2018年11月3日付け)は「これまでFBIを中心とした連邦政府レベルおよび各州レベルでの対テロ対策は、国内外のイスラム過激派および黒人グループに重点を置いた捜査が主体となってきた。白人グループによる犯罪は関心の対象外だった。この結果、白人たちのヘイト・クライムを増長させてきた」と指摘。

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