2024年7月23日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年8月30日

 とくに、事故の事後処理を伝えてきたマスメディア関係者の態度は大いに注目すべきであろう。彼らは長年「共産党の喉舌」として党中央宣伝部の厳格な指導の下に置かれ、真相を伝える機会を往々にして奪われてきた。しかし、今回の事故と事後処理における隠蔽体質こそ、記者自らを含めた中間層に対する共産党体制の裏切り・欺瞞の表れであることを直感し、記者たちはミニブログを活用するなど総力を挙げて(しかも党宣伝部の指導を無視しているとしか思えない勢いで)真相を掘り下げようとしているのだろう。今般のリビア政変をめぐっても、中国の主要メディアの報道は異様に過熱しており、それは「安定団結」を重んじる中国共産党からみて危険思想の伝播とすら思えるものである。

 ともあれ高速鉄道事故以来、中国共産党政権と社会的中間層のあいだには本質的な思惑のずれが生じた結果、中国の政治と社会の今後をめぐる不透明度さは相当増したといえよう。

鉄道問題で国家崩壊の歴史を持つ中国の行方

 歴史を振り返ってみれば、今からちょうど100年前の辛亥革命は鉄道をめぐる問題がきっかけで発生し(資金不足の民営鉄道を国有化のうえ外債を導入しようとしたものの、既に資本を投じた民間からの猛反発が起こり、滅満興漢の革命派と結びついた)、日本を真似た近代化路線をたどり始めたかに見えた清はあっけなく崩壊した。中国共産党はもしかすると、北京=上海高速鉄道を共産党90周年の象徴のみならず辛亥革命100周年の象徴と捉え、胡錦濤国家主席は10月10日に高速鉄道で南京にある孫文の陵墓(中山陵)に向かい、「中華の振興」が実現したことを「国父」に報告するイベントを大々的に催すつもりだったのかも知れない。しかし、果たしてそのような筋書き通りに行くのかどうか予断を許さない。鉄道問題で国家が崩壊した歴史を持つ中国で、ちょうど100年後改めて鉄道問題がきっかけで国家が揺らぎつつあるという歴史の偶然の符合に驚くのみである。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信中国総局記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
※8月より、新たに以下の4名の執筆者に加わっていただきました。
森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)
三宅康之氏(関西学院大学教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)
◆更新 : 毎週月曜、水曜

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