2024年12月23日(月)

使えない上司・使えない部下

2018年12月13日

 前回と今回の2回連続で、メンタルトレーニングの研究・指導で知られる西田文郎(ふみお)さんを取材する。本連載では、2017年8月に「一流の嘘をつける人が「使える上司」」で西田さんを紹介し、2018年1月にも「上司の評価は、「見た目」がすべて!」を取り上げた。いずれも反響が大きかったので、今回はその3回目として紹介したい。

(jgroup/Gettyimages)

 西田さんは、経営者や会社員、プロ野球やサッカーなどのスポーツ選手、教育者などの能力開発指導に長年たずさわってきた。大脳生理学と心理学を利用することで脳の機能にアプローチし、育成する手法(SBTスーパーブレイントレーニング)はよく知られる。現在は、株式会社サンリの会長として、経営者のための「西田塾」を主宰し、全国各地での講演を続ける一方、本などを書き著す。

Q 今、多くの職場で人工知能が様々な形で登場しています。会社員にとってなぜ、桑田さんや清原さんの現役のころの生き方が参考になるのでしょうか?

 人工知能は桑田(真澄)さんのようにち密で優秀ですから、ごく普通のレベルの会社員ならば、その仕事が奪われる機会が増えるはずです。もともと、これまでは人工知能の代わりに安い賃金で多くの社員が働いていたととらえることもできます。

 会社員は、自分の未来を想像する質を変える必要に迫られます。たとえば、「自分は現在の仕事でいいんだ」と思っていれば、早いうちに人工知能にその仕事を奪われます。人は脳の仕組みを理解すれば、想像の質を必ず変えることができます。簡単なんですよ、脳を変えるのは…。

 想像の質を変えるという意味で参考になるのが、プロ野球選手で、超一流といわれる人たちです。(前回の記事で紹介した)桑田さんや清原(和博)さんは、プロ野球選手として一時期は超一流でした。一軍で活躍している人は、全員が一流です。2人はピークのころは、そのレベルをはるかに上回り、球界を代表する投手と打者だったのですから、超一流といえるでしょう。超一流の選手は、一流の選手とは違うことを想像しているのです。

 たとえば、(前回の記事で)清原さんが西武ライオンズにいたころ、先輩の秋山(幸二)さんに敬意を払いながらも、打者としては尊敬していなかった可能性があることをお話しました。ほかの多くの選手は、秋山さんを尊敬していたでしょう。当時の清原さんは、脳の使い方が違っていたのです。

 つまり、ほかの選手を「認めないし、尊敬しない」というように脳が働いていたのだと私は思います。だから、西武のころは彼らしい打撃を続け、輝かしい実績を残すことができたのでしょう。しかし、巨人に移り、松井さんと出会い、「すごい」と認めてしまった。これ以降、脳の使い方や想像の質がそのほかの大勢の選手と同じようなものになり、平凡な結果しか出せなくなりました。

 現役のころ、超一流であり続けたのが、世界のホームラン王・王貞治さんです。王さんもおそらく、脳の使い方や想像の質がほかの選手とは相当に違っていたのではないか、と私は思います。

 王さんの20代のころ、打撃コーチとして育てあげたのが、荒川博さんです。荒川さんがお元気だったころ、当社(サンリ)の役員が一緒に講演をする機会がありました。いろいろなお話をさせていただいたようですが、役員は「(荒川さんの指導などの考え方が)変わった人で、ほかのコーチとはまるで違う」と話していました。だからこそ、超一流の王選手が生まれたのでしょうね。

Q 当時の映像を見ると、荒川さんの指導のもと、王さんは日本刀を振っていました。危なく、怖いことをしていますね…。

 あれは、日本刀を振り、天井から吊るした短冊を斬る練習です。おそらく、当時の王さんには必要だと荒川さんが考えたのだと思います。日本刀を使い、短冊を切るときに風の音がわかるでしょう。その音や短冊の切れ方でバットスイングやフォームを確認していたのでしょうね。当時のプロ野球界では、あのような練習をしていた選手はほとんどいなかったのではないか、と思います。その意味でも、荒川さんは想像の質が違っていたはずです。

 脳に条件付けをしていくと、人間の脳はすぐに変わるんですよ。これがいいんだ、と錯覚するわけです。荒川さんもある意味で錯覚をしていたのだろうし、王さんも錯覚していたのだと思います。大切なのは、脳にどういう錯覚をさせるか、なのです。

 (前回、説明したように)桑田さんと清原さんの人生に明暗がついたとするならば、双方の想像の質は違っていたからだと思います。少なくとも、巨人の晩年のころの清原さんの想像の質は、桑田さんのそれとは大きく異なったものになっていたでしょうね。


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