2024年4月18日(木)

使えない上司・使えない部下

2018年12月13日

Q 女子マラソンの五輪のメダリスト(1992年バルセルナ五輪で、銀。1996年アトランタ五輪で、銅)有森裕子さんは、超一流ですか?有森さんは、西田さんの本などを推薦していますね。

西田文郎さん

 もちろん、五輪のメダリストという記録は超一流ですが、もともと、有森さんは超二流です。ご本人が、そのようにおっしゃっています。彼女の学生時代の記録は、必ずしもよくはなったのです。卒業後に、リクルートの陸上部に押しかける形で入り、猛烈な練習をして、あそこまで這い上がったのです。

 おそらく、長距離だから大成功したのでしょうね。特に必要とされる筋肉が速筋線維の競技、たとえば、短距離や野球などだったら、状況は変わっていたのかもしれません。マラソンのように遅筋線維が必要とされる競技だから、世界のトップに立つことができたのだと思います。遅筋線維は、ある程度の選手がトレーニングをしていくと増えるだけではなく、強くもなります。

 当時のリクルートの監督・小出義雄さんが、(前述の)荒川さんと同じく、ある意味で普通ではないですから…。おそらく、有森さんは小出監督に「お前は必ず、勝てるようになる」などと言われ続けたのだと思います。それで錯覚し始め、「私ならばできる」と確信し、走り続けたのでしょう。遅筋線維は、どんどんと強くなったのでしょうね。

 人間の脳は、簡単に錯覚するのです。脳は、他者暗示と自己暗示で想像の質を変えます。他者からの暗示には、たとえば、有森さんのような監督からの暗示があります。自己暗示といえば、桑田さんですね。現役のころ、彼は「いや、それは違うよ、俺はこう思うぞ」と自らに言い聞かせ、盛んに自己暗示をしていました。

 有森さんは、当初は世界に通用する素質がなかったのかもしませんが、脳を錯覚させ、想像の質を大胆に変える素質があったのです。長距離選手として通用するか否かは、高校や大学のときまでにある程度、答えが出ているようです。有森さんは学生のころに記録が伸びなかったのに、ついには世界で勝つほどの選手になったのです。想像の質を変えると、怖いほどに人が変わることがよくわかります。

Q 西田さんは3年前、脳梗塞になったそうですね。今は、後遺症がないように見えます。なぜ、1年や2年でそれほどに復活できるのでしょうか。私が思ったのは、ご自身で脳を錯覚させたり、想像の質を変えたりしたことで回復をさせたのではないかな、と思いました。

 あのとき、体の具合がおかしい! と異変を感じた場所のすぐ前に病院があったのです。そこにすぐにかつぎ込まれ、入院しました。医師からは、「絶対に安静にしていてください」と言われました。

 当時、66歳でしたから、もう、これで終わりだなと思ったのです。とはいえ、会社を経営する身であり、講演の予定なども数多く入っていました。このまま、いわゆる寝たきりになると、社員やそのご家族、取引先や講演を聞いてくださる方々、私の身内などにたいへんな負担や迷惑をかけてしまいかねないのです。

 とにかく、いちかばちか、元に戻るほうの可能性にかけようと思ったのです。足が麻痺し、まったく反応しなかったのですが、手でずっとさすったのです。片ほうの手も麻痺していましたが、一方の手は、自由に動かすことができました。その手で1日何時間も…。起きている間、さすったのです。それを何日も続けました。

 私が怖かったのは、筋線維が固まってしまうことです。筋線維は麻痺などで固まってしまうと、リハビリをしても、なかなか元には戻らないといわれています。私は懸命にさすり続け、20日後ぐらいにリハビリが始まりました。初日に理学療法士が、私の悪いほうの足を触ったときにびっくりしたのです。「こちらの足は冷たくなっているはずなのに、冷たくない」と驚きながら、話します。その後、リハビリを続け、つえを突けば歩けるように早いうちになりました。そこから回復していくのは、速かったですね。後遺症はほとんどありません。

 リハビリをしているときやその前の段階、つまり、ひとりでベッドの中で手で足をさすっているときに、にこにこと笑うようにもしました。おもしろいわけないじゃないですか…。あくまで、ホルモンを変えるためです。ボディーランゲージと動作で、ホルモンは変化します。ホルモンを活発化させることで、早く回復をしたかったのです。私は、自主的に脳を変化させるようにしたのです。医師がずいぶんと驚いていました。

 これは私の経験にもとづく考えであり、脳梗塞への対処は人それぞれで状況に応じて違ってくるものです。私が言いたいのは、脳に錯覚をさせて、想像の質を変えることです。それにより、人の体や病気もが変わることがありうるのです。会社員には、人工知能などに負けないでほしいですね。想像の質を変えれば必ず、今後もいい仕事をしていくことができるはずです。

  
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