9月になって大学の授業が再開すると、キャンパスは一気に人が増えてにぎやかになる。授業も3週目あたりになってくると学生の履修登録も終わり、落ち着いて勉強する雰囲気になる。ほとんどの授業でテキストを読み込む量が非常に多いので、みんな必死だ。授業は課題図書を読んでいることを前提に進むので、読んでいないとクラスの議論に参加できない。教授の中にはコールドコール(突然の指名)を行う人も多く、学生はみんな必死にテキストを予習する。私の取っている大学院の国際政治のクラスでは、前週の授業の時に翌週分のクエスチョンガイドが配られ、それに答えられるようにみんなしっかり読み込んでくる。
ハーバードでまず感心したことは、授業のシラバスを各教授が非常にしっかりと作っていることだ。何月何日にこれを勉強し、課題図書はこれ、と新学期が始まる前から予告されている。さらにすごいのは多くの先生がそれをウェブで公開しているところだ。ハーバードの学生以外でも全世界からシラバスにアクセスでき、使う教科書も示されているのでどんなことを学ぶのか知ることができる。
授業はシラバスにしたがって進んでゆくが、世の中の状況の変化に応じて必ずアップデートされる。国際政治なら、リビア問題が起こればリビアへの言及が加えられる、という具合だ。これによって授業の質が保たれているといえる。
映画も題材に
「君たちはこのシーンをどう評価する?」
良質な映画を授業の材料に使うのも特徴だ。アメリカの国際政治を学ぶにあたって1962年のキューバ危機は冷戦時代の大きなエポックだが、それを記録として描いた「Thirteen Days」やベトナム戦争を指揮したロバート・マクナマラが自らの人生を回顧した「Fog of War」などが実際に使われている。学生向けに事前に上映会も行われ、参加出来ない人は図書館などで見て準備する。映画は課題図書と同じ扱いで、教授は「あの映画のこのシーンで誰々がこう言っていたが、この部分を君たちはどう評価する?」といった質問も多い。
教科書は教授が自分で書いたもののみならず、幅広い参考文献の中からこの部分を読むようにとリストで示される。古い本などで入手困難なものは教授側でまとめ、「コースパッケージ」として販売する。日本のように自分の書いた高い教科書だけを学生に買わせ、何年間も内容が変わらないマンネリな講義をするような教授とはレベルが全く違う。質の高い授業を提供しなければいけないという大学側の姿勢と、高い授業料を払っているのだから吸収できるものはすべて吸収するという学生の姿勢はぴたりと合致する。授業は真剣で、居眠りしている人などはほとんどいない。特に大学院の授業は真剣だ。
コーヒーなどを持ち込んで自由に飲み、一部の人は食べたりしているのは非常にアメリカらしい。飲み物はまだしも授業中に教室内で物を食べるというのは日本人としては非常に違和感があるが、学生たちはいたって真剣で、急に発言を求められてもしっかりと的確な意見を述べるのには驚く。
歴代大統領の政策や発言について語れる
アメリカの学生
授業に参加して強烈に感じるのはアメリカ出身の学生は歴代の大統領の政策や発言などに驚くほど精通しているということだ。20世紀以降の大統領の順番はもちろん、政策の中身までほとんど常識のように普通に話している。