サウジアラビアが原子力発電所の建設計画を打ち出してから久しい。20年間で18基の原子力発電所を建設したいと発表したのは、もう8年前のことだ。それから、韓国、ロシア、フランス、中国、米国等が受注に名乗りを上げているようであるが、まだ建設には至っていない。
米国では、トランプ政権になってから、サウジアラビアとの関係を改善しようとの動きがあり、その一環として原子力発電所建設計画も議題に上がっていたようだ。それについて、今年2月、米国議会下院は、報告書を出し、議会の承認が必要な原子力発電所の輸出をトランプ政権が勝手に推進するのは問題であるとした。
そもそも、サウジアラビアの原子力発電所の計画の背景には何があり、それが及ぼす影響は何か。改めて、この機会に、考えてみたい。
石油の豊富なサウジアラビアが、どうして原子力発電所の導入を検討しているのか。それは、国内の増える電力需要をまかなうのに石油を使っていると、その分だけ輸出に回せなくなり、外貨収入が減ってしまうからだ。それを防ぐために原子力発電所の建設が必要だとの説明がある。しかし、原発導入の真の動機は、石油代替エネルギー源の確保のためと考えられる。サウジアラビアには 100年分の石油資源があると言われているが、将来は基本的には石油は石油化学の原料として使用し、発電は徐々に原子力や自然エネルギーに代えていく方針と思われる。すでに、サウジアラビアには、太陽光発電所が稼働している。
このように、サウジアラビアの原子力発電所の導入には、国内的にはそれなりの意義があるが、国際的には、様々な問題を含んでいる。
1つは、米国議会が、ムハンマド皇太子が実権を握っている限り、サウジアラビアへの原発輸出には反対のようなので、米国から導入する可能性は低く、そうなると、ロシアから導入する可能性が高くなる。そうなれば、サウジアラビアとロシアの関係が改善されることになる。それ自体は悪いことではないが、中東における国際政治の地政学的環境が色々と変化を起こし、新たな対処が必要になってくる。
トランプ大統領は、イランに対抗するとの観点もあり、サウジアラビアとの関係を重視しており、サウジアラビアと米国との関係は良好だが、サウジアラビアのロシアとの原発取引が成立すれば、サウジアラビアは米国との関係に如何に対処するかの問題にとり組まざるをえなくなる。
サウジアラビアの原子力発電所導入のもう1つの問題は、核拡散の観点からの問題である。サウジアラビアが原発を導入する場合、原発だけではなく、核燃料も自国で生産することを考えているようである。すなわち、濃縮か再処理、または双方をするということである。濃縮、再処理は核兵器の製造に繋がる機微な技術である。
ムハンマド皇太子は、もしイランが核兵器国になったら、サウジアラビアも核武装すると述べている。サウジアラビアのイランとの覇権争いから言って、十分考えられることである。サウジアラビアが核武装を目指す可能性は排除できない。
ただ、濃縮や再処理、特に濃縮は、高度の技術を必要とし、その技術は一朝一夕に取得できるものではない。サウジアラビアが早期に濃縮、再処理の技術を取得しようとすれば、外国の支援が必要となる。サウジアラビアを支援しそうな国はパキスタンである。パキスタンは自国の核武装に際し、サウジアラビアから財政的支援を受けているので、サウジアラビアには恩義があり、サウジアラビアを支援するであろうが、サウジアラビアの核武装につながるような支援は、さすがのパキスタンでも躊躇するのではないか。
いずれにせよ、サウジアラビアの原発導入は、核武装につながる可能性が否定できないので、単なるサウジアラビアのエネルギー問題にとどまらず、中東の安全保障に関わりかねない重要な問題と言える。
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