2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年1月7日

 トランプ政権がINF条約破棄の意図を表明したのに対して、プーチン大統領は、米国がINF条約を破棄するならばロシアは中距離核ミサイルを配備すると反発した。このように、米ロ間では、核をめぐる新冷戦の始まりが懸念されている。

(coffeekai/:AdrianHillman/iStock)

 これに関して、ニューヨーク・タイムズ紙ワシントン支局長のデイヴィッド・サンガ―とウィリアム・ブロード記者が連名で2018年12月9日付の同紙記事で、トランプ政権によるINF条約破棄にかかわる問題としては、中距離核ミサイルについて米ロ間で軍拡競争が始まる恐れの他にも、中国の中距離核戦力の拡充と、新STARTの延長否認の恐れがあると言って、警告している。同記事によると、INFの対象ミサイルを持つ国は、中国以外にも、イン ド、イラン、イスラエル、サウジ、韓国、パキスタン、台湾など10か国に及ぶと言う。北朝鮮は、トランプ大統領が核の脅威はほぼなくなったと述べている中で、 中国のDF(東風)‐26の技術を模倣し、開発を加速化させているらしい。

 中国については、陸上配備ミサイルの95%はINF条約の対象である中距離核戦略であるという。これは台湾への威嚇、東アジアでの中国の軍事的影響力の増大などの観点から懸念されている。 

 この中国の動きにどう対処すべきか。トランプ政権は、中国の中距離核戦力に対抗するため、米国自身が中距離核戦力を持つべきで、そのためINF条約から離脱すべきであると述べている。しかし、その結果、中国の中距離核戦力に歯止めがかかるとは思われない。かえって、米中間で中距離核戦力の軍拡競争が起こる恐れがある。 

 もう一つの方法は、INF条約を手直しして、中国の中距離核戦力にも縛りをかけるようにすることである。後者の方が望ましいのは明らかであるが、中国がINF条約への参加をするインセンティブを持っているかが疑問で、中国の参加の可能性はまず考えられない。 

 当面は、中国の中距離核戦力についての諸外国の関心をあらゆる機会を使って出来るだけ高め、中国をけん制するしか方法はないと思われる。

 他方、新STARTについては、2011年に発効し、10年の期限で5年の延長が可能とされている。米ロの戦略核弾頭を1550発に、ICBMの保有数を800基、配備数を700基に制限するもので、軍備管理上きわめて重要な条約である。2021年2月に期限が来るが、去る3月にプーチン大統領は、ロシアは延長に関心があると述べた。他方、米国では、9月18日に、トンプソン国務次官が、上院の公聴会で、新STARTの延長について「あらゆる選択肢が検討されている」と述べ、延長しない可能性もあることを示唆した。 

 トランプ政権は、INF条約にせよ、新STARTにせよ、軍備管理を優先させて考えていないようである。が、上記のニューヨーク・タイムズ紙によると、米国は、オバマ政権の時から、INF条約からの撤退を検討していたようである。国防総省は、当時から、静かに米国の核戦力を強化する選択肢を模索していた。そして、今回、トランプ政権は、当面の対策として、トマホーク巡航ミサイルを陸上発射に再設計したものを展開する可能性がある。また国防省は 、INFの条件をわずかに下回る射程距離310マイルの「精密攻撃 ミサイル」の予算をつけている。専門家によれば、もしトランプ政権がINF条約からの脱退を正式に決めれば、射程距離を伸ばし、より遠くの目標に到達するよう改良することは簡単であると言う。 

 トランプ政権は、軍備管理体制が無くなった状態が軍拡競争を招き、世界、特に欧州、アジアのみならず、米国自身の安全保障環境を極めて不安定にすることを認識すべきである。米国内の心ある者、欧州、日本を先頭とするアジア諸国は、トランプ政権が軍拡のリスクと軍備管理の有用性を認識し、INF条約につき、欧州や日本などと協議するよう説得に努めるべきである。

  
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