ワシントン・ポスト紙コラムニストのジョシュ・ロウギンが、11月16日付け同紙に、「ロシアは禁止された核ミサイルを配備した。今、米国はそれを作ると脅している」との論説を書き、ロシアの中距離核戦力全廃条約(INF条約)違反への対処ぶりについて、論じています。論旨は次の通りです。
トランプ政権はロシアのINF条約違反問題を解決しようとしている。そのため、米国はロシアの条約違反のミサイルと同じ条約違反ミサイルの開発を計画している。
米政府は、ロシアが1987年のINF条約(射程500km-5500kmの核ミサイルを禁止)に違反していることを2012年以来知っていた。議会の共和党はオバマ政権にロシアと対決するように圧力をかけてきた。
昨年11月、オバマ政権高官はロシアのカウンターパートに会い、条約違反の巡航ミサイルを作っていることを認めるように要求したが、ロシア側は否定した。2月、米情報機関は、ロシアがさらなる措置に出てミサイルを配備したと結論付けた。
トランプ政権は今、ロシアと対決しようとしているが、新しい梃子を使うとしている。同政権は、ロシアが開発したと同様の米国の巡航ミサイルの研究・開発に議会が予算をつけるのを支援している。防衛政策法案は、国防省に新しい地上発射巡航ミサイルの開発を含め、ロシアのINF条約違反に対抗するために5800万ドルを支出する権限を与えるとしている。開発は条約違反にはならない。実際に作れば条約違反になる。
その間、トランプ政権はロシアに「特別検証委員会」の会合を求めている。
NSCのロシア部長ヒルなどが10月、米国の計画について議会に説明した。11月9日、マティス国防長官がNATO国防相にブリーフした。マティスはその後、「INF条約へのロシアの違反とロシアに条約を順守させる共同の努力について話した。軍備管理条約への信頼を保つためにもこれは絶対に必要である」と述べた。
議会の民主党は条約を救う政権の努力を支持しているが、ロシアの条約違反ミサイルと同様の米国のミサイルを開発することが、望まれている結果につながるか、懐疑的である。また国務省の不拡散など担当の次官補であったカントリーマンは、ロシアと同じことをすれば、トランプ政権はロシアの策にはまる危険があるという。
軍備管理主張者は、トランプ政権が条約破棄ではなく、条約維持を目指していることで元気づけられているが、同時にロシアが開発しているのと同様のミサイル開発には懐疑的である。欧州諸国が支持するか、交渉戦術として効果を出すか、疑問だとしている。
INF条約違反となる米国のミサイルの開発がロシア人にINF条約違反を認めさせ、それを是正させると考えるのは間違いであろう、と専門家は言う。
トランプの計画の批判者も、より良い考えがあるわけではないと認めている。ロシアが違反さえ認めない中、解決策を、誠意を持って話し合う可能性は小さい。事実についての合意がない時に、解決についての合意はありえない。
この問題が解決しない場合、トランプは壊れた条約を維持するか、または核軍備競争の危険を冒すかの決定をしなければならない。
出典:Josh Rogin,‘Russia has deployed a banned nuclear missile. Now the U.S. threatens to build one.’(Washington Post, November 16, 2017)
https://www.washingtonpost.com/news/josh-rogin/wp/2017/11/16/russia-has-deployed-a-banned-nuclear-missile-now-the-u-s-threatens-to-build-one/