2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年12月19日

 ロシアがINF条約に違反する巡航ミサイルを開発しているというのは、ずっと言われてきたことですが、ロシア側はそれを否定して今日に至っています。INF条約には、条約が順守されているかについて詳細な検証規定が置かれ、そのための機構が定められています。特定のミサイルが禁止されたミサイルに当たるか否かは、条約の定義に照らし、技術的に決定できることであり、そのことを徹底的に検証していくのが、まず行われるべきことでしょう。

 ロシアが開発しているのと同じようなミサイルを開発すると脅すのは(すでに米国としては、ロシアに申し入れたという報道もあります)、余り感心しません。ロシアは自らのミサイルが条約に違反していないと言っているのですから、「米国が開発する同様のミサイルも当然条約違反ではないので、どうぞご自由に」と言うことになるでしょう。

 そうなれば、今ロシアが開発・配備した巡航ミサイルも、これから米国が開発しようとするミサイルも、INF条約の縛りがかからないものになります。それは、INF条約の適用範囲が狭くなるということですが、そうなった場合の戦略的状況をどう評価するかは別の問題です。

 ロウギンは、壊れたINF条約を維持するかまたは核軍拡競争に踏み出すかと言いますが、その二者択一のほかに多くの考え方があるように思われます。

 INFのグローバル・ゼロを決めた条約は、日本と欧州の安全保障に大きな貢献をしました。そして、今も貢献しています。かつてシュミット西独首相が声高に主張した米国の安保と欧州の安保のデカップリング問題にも、ひとつの解決をもたらしました。米国が今開発すると言って脅しているミサイルは、欧州配備になるでしょうが、これもそう簡単ではないと思われます。ソ連によるSS-20配備に対抗して、米国がパーシングIIと地上発射巡航核ミサイルを欧州に配備することには、大きな反対がありました。

 ただ、米ロだけがINFを作らない中、中国、インド、イラン、北朝鮮などがINFを開発しています。これは大きな問題です。これらの国にもINF規制がかかれば問題はないのですが、そうでない場合、米ロ共に自分たちだけが縛られていることに、いつかは分かりませんが、不満になる可能性があります。INFは無期限の条約ではありますが、未来永劫続くようなものではないように思われます。

  
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