2024年11月21日(木)

解体 ロシア外交

2017年12月4日

 現在、世界の最大の脅威の一つとして懸念されているのが北朝鮮の動向である。諸外国からの再三の非難にもかかわらず、金正恩朝鮮労働党委員長は核実験やミサイル発射を繰り返し行ってきた。米国のトランプ大統領が11月20日に北朝鮮をテロ支援国家に再指定し、また29日に北朝鮮が約2ヶ月半ぶりに発射したロケットは、新型ICBM火星15号で、ついに米国本土全体を攻撃しうる能力も得たと北朝鮮側が発表したことで、北朝鮮問題は新たな緊張段階に入ったとも言える。

 米国と日本は北朝鮮に対し、厳しい姿勢をとり続け、経済制裁をはじめとした圧力を強化し続けてきたが、中国とロシアは従来から北朝鮮との「対話路線」を強調し、日米の方針に反発してきた。それでも2017年に入り、これまで北朝鮮に最も強い影響力を行使してきた中国ですら、北朝鮮への姿勢を硬化させるようになった。さらに米国などの粘り強い説得が大きな背景にあり、また欧米がその内容に関して中露にかなり譲歩したのも事実だが、さすがの中露も再三の北朝鮮による挑発行為に業を煮やし、9月11日の国連安全保障理事会では、全会一致で北朝鮮への追加制裁が全会一致で採択された。

 それでも、ロシアは奇策も用いながら、北朝鮮への支援を続けており、現在の北朝鮮が存続するためにロシアは必須な存在となっている。

 本稿では、ロシアにとっての北朝鮮の意味、ロシアがどのような形で北朝鮮を支援しているのかと言うことを明らかにしつつ、ロシアと北朝鮮の関係について考えてゆく。

(iStock/alexis84)

北朝鮮を通じて自国の「本音」を述べるロシア

 ロシアには北朝鮮の暴走を止める力はない。ロシアは中国と違って北朝鮮上層部に影響力を行使する術を持たず、両国の大使館をパイプとした外交ルートはあるものの、それは北朝鮮の上層部を動かすものではない。北朝鮮はロシアによる政治的圧力、経済的な制裁などでは動かず、力の行使でもされなければロシアの意のままにはならないだろうと言われている。

 だが、他方で米国がロシアに対し、北朝鮮への影響力の行使を望んでいるのも事実であり、トランプ大統領が、ロシアに米朝首脳会談のお膳立てを頼もうとしているという報道も度々なされてきたし、11月にも対北朝鮮への封じ込め強化への協力を要請するため、トランプが1時間にも及ぶ電話をプーチンにしたことも報じられている。

 それでも、ロシアはかなりの譲歩の上で対北朝鮮制裁に同意した以外は、概して米国に非協力的で、北朝鮮との問題は対話で解決することを主張し、北朝鮮の立場に同調する発言もしばしば行ってきた。北朝鮮は経済制裁がどんなに厳しくても核やミサイルの開発から手を引くことはないとした上で、北朝鮮を不安にさせているのは米国であり、米国が日韓共同演習や在韓米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)配備をやめない限り、北朝鮮は安全保障上、ミサイルや核での暴走を止められないのだというような主張である。だが、これはまさにロシアの本音でもあり、米軍のアジアにおける展開はロシアにとって大きな脅威であることから、ロシアが北朝鮮の立場を利用して自国の希望を述べているという見方もできる。そうだとすれば、必ずしもロシアが北朝鮮を擁護しているとは言えないのだが、結果としてロシアが北朝鮮を事実上支援してきたことは間違いない。

 それに、ロシアにとっては北朝鮮の存続は安全保障の観点から重要な意味を持ち、その重要性は増しているのも事実だ。米軍が日本と韓国に駐留し、韓国にTHAADが配備されているという状況は、ロシアにとっても大きな懸念材料であるが、そのような状況においては、北朝鮮はロシアにとって「緩衝地帯」になる。逆に、南北朝鮮が韓国主導で統一されれば、国境近くに米軍が配備される可能性も高まり、ロシアにとっては安全保障上極めて危険だ。ロシアは西の国境がNATOに脅かされている状況を極めて危惧しており、そのような脅威が東にまで及ぶことはなんとしても避けたい。そのため、ロシアは北朝鮮の存続を支援することには大きなインセンティブがあるのだ。


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