仲介役になりたいロシアの思惑
最後に、プーチン政権が北朝鮮と関係を深め、北朝鮮側の信頼を勝ち取ることにより、北朝鮮と米韓日との間の仲介者としてのポジションを確立しようとしていることも注目される。
まずロシアで開催される国際会議に北朝鮮や韓国の代表を招いて南北対話の実現の機会を模索している。例えば、9月上旬にウラジオストクで開催された「東方経済フォーラム」には北朝鮮の金英才対外経財相も参加し、ロシアから貿易・投資の拡大や様々な分野での協力や経済支援などの厚遇を引き出したという(ただし、極東の地元住民は核実験やミサイル発射を行う北朝鮮に不信感を募らせており、ロシア政府の北朝鮮厚遇には不満を募らせているという)。
このフォーラムの総会でプーチン大統領は改めて北朝鮮への対話路線を強調し、現状を打開できるのは「太陽政策」のみだとして、北朝鮮を地域経済協力のスキームに参加させることで状況を打破できると主張した。その際、ロシアが従来から推進してきたシベリア鉄道の朝鮮半島への延伸計画や南北朝鮮を結ぶガスパイプライン建設構想、北朝鮮の港湾活用などの可能性を強調した。他方、同フォーラムに参加した韓国の文在寅大統領は、南北とロシアの参加国による経済協力を通じて、北朝鮮に核・ミサイルの放棄を促す構想を発表し、ロシアとの共同歩調を強調した。ロシア、韓国の構想については実現性に疑問も持たれているが、北朝鮮にとっては決して悪い話ではない。
また、ロシア上院のヴァレンチナ・マトビエンコ議長は10月16日に、サンクトペテルブルクでの国際会議を訪れた北朝鮮と韓国の代表とそれぞれ会談し、北朝鮮の反発により実現しなかったものの、マトビエンコは両国の直接会談を呼びかけていた。なお、この際、韓国との会談が約30分だったのに対し、北朝鮮とは約1時間半に及び、会談終了後にマトビエンコは北朝鮮問題を巡る6カ国協議の再開を目指すべきだとし、ロシアがその実現に向け最大限努力するとも主張した。加えて、10月19日からモスクワで開催された核不拡散に関する国際会議には北朝鮮外務省の崔善姫北米局長と、米国のウェンディ・シャーマン元国務次官が参加していたため、ロシアが両者の接触を試みたとも報じられている。
また、ロシアは北朝鮮との太いパイプの構築にも積極的だ。ロシアの議員団が10月初旬に訪朝して北朝鮮高官と会談したのに続き、11日にはタス通信のミハイロフ社長が訪朝し、李容浩外相と会談した。さらにロシアのタス通信が、軍事行動をちらつかせる米国とは議論できる雰囲気ではないという李外相の主張を紹介するなど、ロシアは北朝鮮との人的関係を構築しつつ、北朝鮮側の主張を代弁するなどし、信頼関係を深めながら、スポークスマンの立ち位置を確保しようとしているように見える。
このようなロシアの努力の背景には、北朝鮮問題で仲介役になれれば、東アジアでの影響力を高められるだけでなく、対米外交カードにもなるため、ロシアにとっては重要な外交ツールになるという思惑がある。
死活的利害の対象ではないけれども……
ロシアが北朝鮮を支援する背景には、ロシアの国際戦略や労働力確保、経済的ポテンシャル、緩衝地帯としての維持の必要など、様々な要因があるとはいえ、北朝鮮はロシアにとって死活的利害の対象ではない。また、ロシアの北朝鮮に対する影響力はほとんどなく、ロシアの思い通りにできる相手でもないだけでなく、国際的な状況にも大きく左右されるため、ロシアの北朝鮮に対する持続的戦略は描きづらいのが実情だ。そのため、ロシアはウクライナ問題などに端を発する欧米諸国の間での孤立状況への対応や朝鮮半島情勢の緊迫化の利用などで、その時々の自国の利益を最大限に高めるために、場当たり主義的に行動していると言えそうだ。
だが、2017年に入り、中国が明らかに米国に接近し、北朝鮮に対する厳しい制裁で合意したたように、死活的な利害関係がないからこそ、ロシアも北朝鮮を見捨てる可能性があることは否定できない。また、ロシアが米国との冷え切った関係を改善したいのも間違いない。だが、ロシアのアジアにおける影響力維持と北朝鮮の緩衝国としての存在感は、現在、ロシアが欧米諸国間で孤立しているからこそ大きな意味があるというのも事実だ。
そのため、ロシアは綱渡りをしながら、今後も対北朝鮮支援を続けるものと考えられる。
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