米中接近によりロシアの存在が重要に
冒頭でも触れたように、今年は諸外国を苛立たせる北朝鮮の暴挙が相次いだ。それらの主要なものは、核実験・ミサイル発射、米国人学生の拘束・拷問が結果的に死亡に至ったことであり、また金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄・金正男暗殺容疑も北朝鮮を追い込む要因となっていった。
これらの暴挙により、北朝鮮が国際的な孤立を深めたのは間違いないが、特に北朝鮮にとって打撃だったのは、中国が北朝鮮から大きく距離を置くようになったことだ。中国は2017年初頭にはすでに対北朝鮮支援を縮小し始めていたが、中国と米国が接近することにより、その趨勢はより顕著になっていく可能性が高い。10月のトランプ大統領のアジア歴訪の目的の一つが、北朝鮮問題でのアジア諸国の連携を強化することであり 、特に日本とは、北朝鮮への圧力を強める方向で完全に一致した。また、トランプは、中国でも「皇帝級」の歓迎を受け、北朝鮮対応でも協力体制を強化した。中国はトランプ訪中後に発表された北朝鮮に対するテロ支援国家再指定には反発したが、禁輸政策などでは米国に極力協力していると言える。
北朝鮮にとって、米中接近は大きな打撃だ。だが、それにより、ロシアの存在が極めて重要になったのも事実である。
ロシアは北朝鮮を現体制のまま維持したいと考えており、そのため、国際舞台では北朝鮮の暴挙を批判し、限定的な制裁に参加しつつも、日米が推進する北朝鮮への圧力強化には厳しい姿勢で反対し、特に、武力行使はなんとしても阻止しなければならないと考えてきた。何故なら、米国などが北朝鮮に対して武力行使に出れば、北朝鮮が崩壊する可能性が高まるだけでなく、大勢の北朝鮮難民が発生し、ロシアに流れ込む可能性も極めて高くなり、そうなればロシアの国際戦略が打撃を受けるだけでなく、国内が不安定化すると考えられるからだ。
またロシアは金正恩体制の存続も望んでいるようだ。金正恩は自身の護衛のために元KGB要員を軍事顧問として起用しているが、それもロシア政府の関与なしには考えづらく、ロシアが金正恩体制の維持を望む強い気持ちが見て取れる。
そのため、ロシアは、北朝鮮の諸問題を対話ベースで解決していくことを主張し、北朝鮮に対する影響力は実際にはほとんどないにもかかわらず、仲介役の役割も果たそうと外交努力も続けてきた。
他方、中国の対米接近で、かつては中国からの支援や中国との貿易でなんとか経済を回してきた北朝鮮は、ロシアとの関係を強化することでなんとか穴埋めをしようとしている。また、ロシアも様々な裏の手を使って北朝鮮を支援する一方、北朝鮮の安価な労働者を利用するなど、両国間にいびつな相互依存関係があるのも事実だ。
制裁逃れに手を貸すロシア
最近注目されている両国の関係を取り上げる。
第一に、北朝鮮の制裁逃れへの実質的な支援である。米国は対北朝鮮制裁で北朝鮮への石油供給を完全に停止しようとしてきたが、中露はそれに激しく反発してきた。北朝鮮の主な石油調達源は中露であるが、その内訳は年間で、中国が原油約50万トン、石油製品約21万トンで、ロシアが主に軽油20~30万トンだと言われている。北朝鮮の石油需要は年間90万トンであるので、その半分以上を中国に依存している形になる。
他方、ロシア側は一貫して、北朝鮮向けの石油や石油製品の輸出はゼロに等しいと主張してきたが、2017年には顕著に実績が伸びている。第1・4半期におけるロシアと北朝鮮の2国間貿易は3140万ドル(約35億円)と、2倍以上に増加しており、石油製品の輸出増加がその主たる理由だという。また、10月までに、少なくとも8隻の北朝鮮船籍の船が燃料を積んでロシアを出航し、名目的には北朝鮮以外の第三国を目的地としつつ、実際は北朝鮮に帰港しているという。これは、北朝鮮が制裁逃れのためによく用いる策略だとされている。ロシアが中国に輸出したという名目で、実際には北朝鮮に転送されている事例も多いという。
また制裁によって本来ならば、北朝鮮の主要な収入源である石炭輸出はできなくなっているはずだが、中露の関与でそれも可能になっているという。例えば、6月に中国を出港した船舶が北朝鮮領海に入る際に位置情報システムを切り、北朝鮮の南浦に入港して石炭を積んだ後、朝鮮半島を迂回してシステムを稼働し、ロシアの港に停泊したのち、石炭を積んだまま中国に戻ったというのだ。表面的には、北朝鮮に入った事実は残らず、あたかも石炭をロシアから輸入したように見える。パナマ船籍やジャマイカ船籍の船舶も利用され、かなりの量の北朝鮮産石炭が中国やロシアで荷下しされているという 。北朝鮮は石炭輸出で年間推定10億ドル(約1100億円)以上の収入を得ているとされる。
このように、中露が北朝鮮の制裁逃れに関与すれば、制裁の意味が減じるのは言うまでもない。他方で、ロシアは北朝鮮の弱みを握り、その影響力を高めることができるのである。